研究課題/領域番号 |
19K12770
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
早川 雅之 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (20803422)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 集団運動 / 自己組織化 / パターン形成 / 細胞性粘菌 |
研究実績の概要 |
細胞性粘菌の変異株の一つであるKI細胞を寒天培地上でバクテリアと共に約1週間培養すると、その培養過程でKI細胞集団が渦状構造を形成する。また、細胞性粘菌の細胞運動には、左右非対称性が見られることが知られている。本研究課題では、個々の細胞性粘菌の運動に現れる左右非対称性が、どのようにして左右非対称な渦状集団構造を生み出すのか、という疑問に焦点を当てる。2020年度では、バクテリアの存在が渦状構造の形成にどのように影響を与えるか、また、渦状集団構造で個々の細胞がどのようにふるまっているのかという点について着目した。特に、バクテリアの存在が渦状構造の形成に影響を与えるかどうかを調べるために行った実験においては、本研究課題で扱うKI細胞-バクテリアの培養過程で現れる渦状構造とは異なる、新たな渦状構造が観察された。この渦状構造は本研究課題で扱うものと左右非対称性(渦の巻き方向)が一致しているなど、共通点が多く、非常に興味深い現象である。一方で、当研究グループの先行研究(eLife 2020;9:e53609)から得られた知見より、新たな渦状構造はバクテリア存在下では起こり得ないと考えられるため、従来の渦構造形成とは原理が異なると結論づけた。個々の細胞の振る舞いに関しては、いくつかの実験を試してみたものの、渦状構造が三次元かつ構造を有しながら動くといった複雑挙動などによりうまくデータが取れず、今のところ重要な手掛かりはつかめていない。今後も引き続き、実験を試していくつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度では、バクテリアの存在が渦状構造の形成に影響を与えるかどうかを調べるために、KI細胞の細胞塊を寒天培地上に置き、その後観察した。すると、細胞性粘菌集団は粗密波様の細胞集団運動を示しながら、渦状の構造を形成した。粗密波様の細胞集団運動は、当研究グループの先行研究で示されているようにバクテリアが存在しない状態でみられるものである。これより、この実験でみられた渦状の細胞集団は、本研究課題で設定したKI細胞-バクテリアの培養過程で現れる渦状構造とは原理が異なるものだと考えられる。この現象は、本研究課題で扱う渦状構造と同じく、細胞が左右非対称な構造を形成する原理の理解につながる非常に興味深いものである。また、渦状集団構造内において個々の細胞の運動を調べるため、当研究グループが先行研究で開発した、マイクロ蛍光ビーズを用いた細胞追跡手法を、渦状構造を形成する細胞一つ一つに適用した。この手法では、KI細胞が食作用により取り込んだ蛍光ビーズをトラックすることで細胞の運動軌跡を得る。しかしながら、本研究で扱う渦状構造は三次元構造を有しており、マイクロビーズの高さが変わることでフォーカスアウトしてしまうという問題が生じており、重要な手掛かりは得られていない。したがって引き続き、個々の細胞に着目した実験を進めていくことを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
バクテリアが存在しない状態でみられる渦状構造は非常に興味深いが、本研究では引き続き、KI細胞-バクテリアの培養過程で現れる渦状構造に着目する方針である。今後は特に、渦状集団構造内における個々の細胞運動の観察・解析に重点を置きたい。まず、マイクロビーズがフォーカスアウトしてしまうという問題を克服するために、ある高さごとに何枚か蛍光画像を取得し、撮影が終わった後それらを重ね合わせて一枚にする方法(z-projection)を試すつもりである。うまくビーズ像を取得することができれば、細胞運動を解析し、1細胞の運動と渦構造の関連性を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大に伴う措置として、思うように実験することや出張が困難だったため。今後、徐々に実験のペースを戻していき計画を遂行し、計画当初の必要経費に充てたいと考えている。
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