本研究では、がん細胞の潜在的な転移性を示す新しい細胞計測の指標を得ることを目指し、微小管ネットワークとキネシンで人工系に構成する「運動界面」を細胞の動的力学環境に用いて、細胞の接着挙動を解析する手法を開発することを目的としていた。 最終年度である本年度は、運動界面の出力特性について「微粒子の撹拌」を指標として調査した結果をプレプリントとしてChemRxivに発表した。キネシンと微小管のモータータンパク質のミクロな駆動力が粒子間の等方向的な変位に寄与することを明らかにしている。また、マクロな力学計測では、改良版のガラスマイクロニードル装置による計測を行い、出力の周期的変化を観測し、前年度までのマイクロマニピュレーターを用いた計測結果の再現性を確認し、加えてキネシンの駆動溶液条件に依存した出力特性を解明した。この結果については、生物物理学会年会にて口頭(オンライン)発表で報告している。運動界面による動的力学環境下で、接着特性からがん細胞を評価する研究については、運動界面に接着した細胞を酵素処理による剥離操作を流路系で実施して細胞を回収し、剥離性を反映した細胞の分画とその培養による増殖を実現している。得られた細胞群の生物学的な手法による分析・分類や、病理学検査由来の細胞を対象とした調査を経た臨床応用への展開を可能にする目的で、埼玉医科大学と共同研究の体制を構築している。臨床の試料から、動的力学環境における細胞挙動を評価するデータを獲得して統計的に解明を進め、また生化学的な細胞群の特性との相関を解明することは、将来的に転移性の予測や投薬治療の新指標獲得に繋がると期待できる。
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