研究課題/領域番号 |
19K12776
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
合田 達郎 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (20588347)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タイトジャンクション / pH摂動 / 組織工学 / 上皮細胞 / バイオセンサ / トランジスタ / バイオ界面 / 生体バリア |
研究実績の概要 |
本研究では、生理学や医用工学分野での重要な研究対象である上皮細胞間バリア機能を超高感度かつ選択的に評価する手法の開発をおこなった。上皮細胞間には密着結合(タイトジャンクション:TJ)とよばれるタンパク質構造体による分子ゲートが存在し、細菌・ウイルスの侵入防止や栄養素の吸収といった上皮組織の主要な役割を担っている。また、TJはがん細胞の組織浸潤メカニズム解明や、薬剤送達系のナノキャリア材料開発、組織工学・再生医工学における培養上皮組織の品質管理などにも関連する。一方で、これらの生体バリアの評価系は十分に開発されているとは言い難く、医工学のさらなる推進のためのボトルネックとなっている。 近年、我々は弱酸や弱塩基の水溶液を培養細胞に瞬間的に暴露させた際に細胞微小環境で生じる可逆的なpH摂動現象を見出した。さらに、この現象の本質は細胞膜のイオンバリア性であることを解明した。そこで、、高速、安価、非侵襲、高スループット、リアルタイム、1細胞でのバリア性を評価できるといった利点を有するこのpH摂動アッセイを応用し、細胞膜と同様にイオンバリア性を有するTJの評価に応用することを目指した。 研究では、まず、pH摂動の変化量からモデル上皮細胞シートの成熟具合やTJの破綻度合いを定量的に評価できるかについて検証をおこなった。ウェルシュ菌産生毒素を用いたTJ破綻実験では、従来法であるインピーダンス法や透過率試験法と比較して、10倍以上の感度を有することが判明した。同様に、TJ形成評価試験では、従来法よりも厳密にTJ形成を評価できることが明らかとなった。高感度化の理由は、1.最小分子水素イオンを透過の指標に用いていること、2.pH摂動変化がTJ形成/破綻に選択的に応答すること、に起因することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画で想定したTJ破綻と形成の双方についてのpH摂動アッセイの評価を順調に終え、現在は予定通り次の目標である「極微サイズの空孔形成の検出や、膜障害機構の種別の判定をおこない、ナノ材料の細胞膜透過現象の分子機構を明らかにする」に研究は移行している。
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今後の研究の推進方策 |
本pH摂動法は、高速、安価、非侵襲、高スループット、リアルタイム、1細胞レベルの空間分解能で生体バリア性を評価できると期待される。そこで、以下に示すモデル実験をおこなうことにより、本技術の有用性と実用性を検証する。 ①細胞膜バリア性評価と応用:細胞膜透過性ナノ材料をキャリアに用いた細胞治療・イメージングが注目されている。我々も、両親媒性リン脂質模倣高分子による同様の現象を見出しており、そのナノメディシン応用が期待される。これまで、細胞膜とナノ材料の相互作用を検証する評価系が不在であった。そこで、pH摂動法と従来法を併用し、極微サイズの空孔形成の検出や膜障害機構の種別の判定をおこない、ナノ材料の細胞膜透過現象の分子機構を明らかにする。 ②上皮組織バリア性評価と応用:TJ形成促進作用や阻害作用を有する化合物を用いて、TJ標的型薬剤の効果を測定できるかについての原理証明実験をおこなう。上皮組織バリアを介した透過制御が成功すれば、将来、小腸におけるタンパク質製剤の吸収(例:経口インスリン投与)や脳への薬剤送達(例:アルツハイマー治療薬)の開発につながる。一方、組織工学・再生医療分野では、体外で培養した組織の「医薬品」としての機能評価や品質管理に本技術は有効であると考えられる。また、EMTは組織成長因子(TGF-β)等によって誘導される細胞骨格の変容、細胞間接着や極性の消失、遊走性の獲得であり、がん細胞の主要な組織浸潤・転移機構である。近年、エクソソームなどの細胞外ベシクルによるEMTなど、新たなEMTの誘導機構が見いだされている。EMTは分子生物学的に理解されることが多いが、上皮バリアの消失といった細胞機能に主眼を置いた組織生物学的な理解は不十分である。本研究では、pH摂動法の利点を生かして、EMT発生時の分子生物学的変化と細胞機能変化の動的連関を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、予定していたISFETセンサと装置消耗品、試薬類の購入費用が少なく済んだため。これらは次年度での購入に充当する。
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