研究実績の概要 |
細胞膜やタイトジャンクション(TJ)といった生体バリア評価の重要性は増しつつあるが、既存の測定法は問題点が多く、実用に耐えうるものではない。申請者らが新たに開発したpH摂動法は、既存の膜障害性アッセイや上皮TJ評価の問題点である非侵襲・リアルタイム・多並列化・感度・時間分解能の問題を一挙に解決する待望の技術である。この独自の技術を用いて、細胞膜および上皮TJといった生体バリア性を従来法では達成不可能な高感度で評価するIn vitroアッセイを開発することを目的としている。 本年度は、市販の核酸ナノキャリアがエンドサイトーシスで細胞に取り込まれた後に、いかにしてエンドソームから脱出するかの原理証明実験をおこなった。ナノキャリアは系のpH酸性化に依存して空孔形成能を獲得し、高分子ベースに比べて脂質ベースのナノキャリアの方がより小さい分子サイズの空孔を形成することが明らかとなった(J. Mater. Chem. B, 2021, 9, 4298)。また、細胞膜透過性のリン脂質模倣高分子が上皮バリアをいかに透過するかについての原理証明実験としてpH摂動法を用いた。その結果、細胞膜空孔形成やTJ破綻を伴わない細胞膜融合を介したトランスサイトーシスで上皮バリアをすり抜けることが明らかとなった。さらに、インスリンを担持したリン脂質模倣高分子が同様のトランスサイトーシス経路で上皮バリアをすり抜けてインスリンを送達することも証明した(Acta Biomater., 2022, 140, 674)。
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