研究課題/領域番号 |
19K12779
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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研究分担者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
池田 充 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50184437) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線防護 / 医療被ばく / 小児心臓CT / ファントム / 画質評価 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、先天性心疾患を模擬した小児型心臓動態ファントムを独自に作製すること、それを用いて小児心臓CT検査時の画質と被ばく線量の関係を解明することで、小児心臓CT検査の最適化を検討することである。2019年度は、小児患者の心臓および血管形状データを基に、小児型心臓動態ファントムの作製を行った。心臓CT検査の場合、診断画像の画質に大きく影響を及ぼすのは、モーションアーチファクトである。最新のCT装置には、冠動脈の複雑な動きを予測し、モーションアーチファクトの少ない静止画像を自動で得ることが可能な心臓動態解析アルゴリズムが搭載されているものがある。このような心臓CT特有の再構成アルゴリズムでは、ファントムにおいて心臓の形態はもちろんのこと、血管の動きが本物の心臓とかけ離れていると、画像が再構成されない。そこで本研究では、まず、ラバー製の心臓ファントム体部に造影剤を注入したシリコンチューブ製の模擬血管を装着した試作品の心臓動態ファントムを使って、模擬冠動脈の形状や動きがCT装置によって認識され画像が得られるかどうか試した。結果、試作の心臓動態ファントムでは画像を得ることができなかった。そこで、模擬冠動脈の形状や配置、心臓全体の形状などファントム形状を様々に変化させ試作を繰り返した。結果、最終的な心臓動態ファントムの構造を決定した。作製した小児型心臓動態ファントムは、直径20cmのアクリル水槽中心位置に、シリコンラバー製の心臓体部、冠動脈、心臓ファントム体部に造影剤を出し入れし、心臓を拡張収縮させるための脈動ポンプからなる。次に、当初の実験計画通り、作製した心臓動態ファントムを病院に持ち込み、臨床条件にて撮像を行おうとしていたが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、病院での撮像実験ができなくなり、現在研究が中断している状態である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、心臓CT検査における画質と被ばくの関係を解明することが第一の目的であるが、様々な撮影条件で心臓CT画像を取得するには、人体の形状や生理的体動を模擬したファントムが必要不可欠である。特に小児は成人に比べ体が小さいため、心臓や血管の造作に細かい作業が必要であることから、ファントム材料の加工性、CT値などの物理特性、動きに対する伸展性や収縮性、強度の検討などに多大な時間がかかった。血管の形状も病態に合わせて変更できるように、心臓体部と冠動脈は別々に作製し、心臓体部の上から冠動脈をかぶせる構造で試作品を作製したが、CT装置の心臓動態解析アルゴリズムには心臓として認識されなかった。再度、冠動脈の形状、材質、動きなどを検討し、何十回と試作を繰り返した。その結果、心臓体部と冠動脈の密着度の改善が必要であること、冠動脈を脂肪組織様構造物で覆う必要性があること、大動脈と冠動脈の分岐部の構造の改善が必要であることなどが明らかになった。また、心臓体部の構造が独特であるため、型から心臓部分を外す工程がうまくいかずにラバーが破れてしまい、何度も型の設計をやり直すことになった。最終的には使い捨ての型を作製することにした。これらの製造工程を改良しつつ、最終的な心臓動態ファントムを完成させたが、当初の予定よりもファントムの作製に大いに時間と労力を費やした。それでもようやく完成した心臓動態ファントムを病院の臨床機で撮影してもらう予定で協力関係にある病院と打ち合わせを行っていたが、2020年に入ってからは、新型コロナウイルスに対する感染防止対策のため、病院への部外者の出入りが禁じられ、心臓CT検査時の画像収集実験が行えなくなった。2019年度の計画の一つである、心臓動態ファントムの作製は完了したが、様々な撮影条件で撮影したファントム画像の画質評価は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実施する予定の心臓CT検査時の被ばく線量評価もまた、実際に臨床で使用されているCT装置を使って、臨床で日常的に使用されている撮影条件に即して実施する必要があるが、新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、病院内での線量測定実験は今年度中には実施できない可能性が推測される。そこでまず、2020年度は、2019年度に実施できなかった、画質評価を優先的に行うこととし、臨床機ではなく実験用のCT装置で画像収集を行うこととする。実験機には最新の心臓動態解析アルゴリズムは搭載されていないが、一般的なマニュアルでの心臓CT検査の再現は可能である。撮影条件は小児の心臓CT検査に関する文献を参照とする。一方で、川崎病の診断に必要な冠動脈病変を再現するため、冠動脈ファントムに模擬動脈瘤を付与した動脈瘤付き血管ファントムの開発と、血管狭窄を模擬した狭窄付き血管ファントムの開発を行う。これら血管ファントムを装着した心臓動態ファントムの画像収集を行い、我々が考案したGauss法により画像ノイズおよびContrast-to-noise ratio(CNR)を評価し、Gumbel法によりアーチファクトの評価、また、血管形状のあいまい度と情報利得を指標に動脈瘤あるいは狭窄部位の検出率の評価を行う。最終的な心臓CT検査の最適化の判断には、我々が考案したBenefit-to-risk ratio (BRR)=情報利得/臓器線量を各撮影条件で求める必要があるが、臓器線量の測定は実施できるかどうかが不明であるため、もし、実測による臓器線量評価が不可能であった場合は、モンテカルロシミュレーション法により患者線量を計算で求める方法に切り替える予定である。上記の手法を用いて、心臓CT検査時の画質と線量の関係解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の3万円は、2019年度に研究分担者の一人である池田 充に配分した分担金が返却されたものである。研究計画では、池田 充には、作製した心臓動態ファントムの設計とそのファントムのCT画像の画質解析を行ってもらう予定でいたが、ファントムの作製が遅れたことと、新型コロナウイルス感染拡大のため、臨床現場での画像取得が時期的にできなかったこと、2020年3月31日に池田自身が退職することで、翌年度も研究分担者として継続して研究を分担することができないことから、分担金を使用せずに返却したいとの意向を池田から年度末に受け取ったため、今年度は使用せずに次年度に繰り越すこととした。 翌年度分としては、画像情報の記録媒体(CD、DVD等)の購入に、この3万円の使用を予定している。
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