研究課題/領域番号 |
19K12781
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 量 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (10768071)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 筋管形成 / 細胞接着誘導 / 方向秩序 |
研究実績の概要 |
疾患や発生の過程における細胞外基質の動的変化に対する細胞応答は、細胞組織の恒常性という観点から見て極めて重要である。特に、細胞外基質のもつ非対称的な構造や機能に対して細胞の形状や運動が影響を受けるが、すでに細胞がある構造に適応している状況から別の構造に変えるという「動的」トポグララフィ変化に対する細胞・細胞群の応答を観測・解析することは不可能であった。そこで本研究では筋芽細胞が筋管へと分化する過程に着目し、異方性をもった基板のトポグラフィの動的変化といった力学的刺激が筋管へ分化するメカニズムに与える影響を明らかにするだけでなく、筋管形成の動的制御技術も開拓する。 当該年度以前までには(A)筋管形成実験を行う上で、溶液中で安定したしわ基板を作ることが可能となり、しわ基板の最適化を行ったのに加えて、(B)単細胞が基板のトポグラフィの情報を読み取れるしわ波長範囲を野生株だけでなく、筋管形成ができない遺伝子変異型においても突き止めた。さらに、(C)野生株のしわ基板上での筋管形成の観察に成功した。 本年度では(C)で成功した野生株のしわ基板上での筋管形成を発展させ、筋管形成ができない細胞株でもしわ基板のトポグラフィによって筋管が形成できることを突き止めた。また、「静的」なしわ基板上での細胞集団の挙動を定量的に解析するプラットフォームを確立した。さらに、しわ基板を用いることで野生株が筋管形成する際にしか見られないアクチン・ミオシン構造が筋管形成できない遺伝子変異型の細胞集団においても見ることができ、トポグラフィが筋管形成に与える影響の理解に一歩近づいた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第二段階(当該年度)では、当該年度以前までに最適化したしわ基板を用いて、(1)トポグラフィによる細胞集団の挙動を細胞の形状や方向秩序変数といった物理的指標を用いて定量解析するのに加えて、(2)微小環境の構造が一見分化できない細胞株を筋管形成へと導くことができるかの探索を計画した。 (1)細胞集団の挙動の定量解析:しわ基板の波長や細胞株の違いが細胞集団の挙動に与える影響を定量的に解析するため、細胞形状(アスペクト比)および細胞集団のしわの方向に対する方向秩序変数を抽出するプラットフォームを確立した。この解析手法は特に今後行う「動的」しわ基板の実験において、筋管形成能の獲得・喪失を定量するためにとても大事であり、実験条件によらず筋管への分化の度合いを定義することが可能となる。 実際、「静的」しわ基板上での野生株の筋管形成を解析した結果、平面基板に比べてアスペクト比が増加した(より伸長度合いが高い)のに加えて方向秩序変数を用いて細胞集団同士がより同一方向(しわの方向)に揃ったことがわかり、しわ基板によって野生株の筋管形成能が高まることを明らかにした。 (2)遺伝子変異型の筋管形成:筋管が形成される過程では細胞同士が単に結合し合うだけでは不十分であり、細胞の方向的秩序を作り出す必要があるが、PIEZO欠損細胞は伸長が不十分で異常な合胞体を形成する。しかし、しわ基板を用いることでPIEZO欠損細胞を筋管形成へと導くことができ、アスペクト比と方向秩序変数を用いて裏付けた。 さらに、筋管への分化過程においては異常な合胞体が形成されないために表層のアクチン・ミオシン構造を作る。蛍光染色を用いて、しわ基板上でPIEZO欠損細胞の集団が表層のアクチン・ミオシン構造を形成することを突き止め、おおむね順調に進捗しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
しわ基板が筋管形成に与える影響を細胞の形状や細胞集団の方向秩序変数といった物理的指標を抽出することによって定量的に解析することができるようになったため、今後はトポグラフィを変化させ、細胞の動的応答を見ることで筋管形成能の獲得・喪失との関係性を定量的に探る。さらにしわ方向をさまざまな時点で変化させることによって機能の獲得・喪失の制御を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、当初計画していた国内出張(共同研究打ち合わせ)や国際学会への参加ができなかったため生じた。 また昨年度、当初計画していたオーダーメイドの手動圧力装置について、試作品の作成とその後の完成品の納品に時間がかかることから、既製品で同等の精度で圧縮を制御できる商品を購入したため生じた。今後予定している「動的」しわ基板実験ではしわの方向をさまざまな時点で変化させるため、複数の実験を並行して行う必要がある。そのために圧縮を制御できる装置を必要な数量購入する予定である。
|