研究課題/領域番号 |
19K12788
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
戴 平 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20291924)
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研究分担者 |
武田 行正 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40735552)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ダイレクトリプログラミング / 神経変性疾患 / ドーパミン作動性ニューロン / 運動ニューロン / 低分子化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は、低分子化合物による神経細胞へのダイレクトリプログラミングの技術をさらに発展させ、ヒト線維芽細胞から特定の神経細胞サブタイプであるドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンを誘導することを目的とした。これら神経細胞の変性・消失は、それぞれパーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症の発症原因であり、患者自身の線維芽細胞から迅速かつ簡便に上記の神経細胞を調製することができれば、これら神経変性疾患に対する移植治療のため最適な細胞のリソースとなりうる。初年度は、研究実施計画に則り、神経細胞へのダイレクトリプログラミングを可能とする6種類の低分子化合物に加え、目的とするドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンの分化や機能に重要であると報告されているもの、あるいはその可能性のあるものを複数組み合わせ、これらサブタイプへの誘導を試みた。具体的には、これら低分子化合物の組み合わせを神経細胞用培地に加え、濃度と培養時間(数週間)を変化させながら、ヒト皮膚由来線維芽細胞を培養した。神経細胞用培地の組成についても、添加物やベースとなる基本培地(Nurobasal培地とDMEM/F12培地)を様々に変化させ、条件検討を行った。誘導後、線維芽細胞から誘導される神経様細胞について、細胞体や軸索の長さなどの形態変化を確認するとともに、ドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンに特異的な遺伝子の発現についてそれぞれ解析を行った。その結果、特定の条件において、ドーパミン作動性ニューロンに特異的な遺伝子であるNurr1やTh(チロシンヒドロキシラーぜ)および運動ニューロンに特異的なNgn2やHb9といった遺伝子の発現が活性化していることが判明した。この結果は、低分子化合物のみでこれら神経細胞サブタイプを誘導する実験条件を決定するために大きな進展であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、概ね計画通り順調に進展している。初年度は、実施計画に則り、低分子化合物によるドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンのダイレクトリプログラミングの条件検討を行った。我々の開発した神経細胞を誘導する手法に基づき、低分子化合物の組み合わせと培地の組成を変えることによって、これまでの神経細胞の状態とは異なる、これら神経細胞サブタイプにより近い細胞が誘導された。これらの誘導細胞では、ドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンに特異的ないくつかの遺伝子が活性化していた。この実験結果は今後、これら神経細胞サブタイプへ誘導を進めていく上で大きな進歩であると考えられる。そのため、これらの研究状況を踏まえ、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では、ヒト線維芽細胞からドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンへ部分的に誘導を進めることができた。そのため次年度では、ある程度特定できたこの実験条件をさらに検討し、より完全なこれら神経細胞サブタイプへのダイレクトリプログラミングを目指し、最適化することを目標とする。また、まだ検討されていないこれらのニューロンへの分化や機能に重要である化合物について効果を検証し、さらに他の化合物と組み合わせる予定である。また、線維芽細胞から我々の報告した低分子化合物誘導性神経細胞(CiN細胞)に変換し、その後これらの神経細胞サブタイプへの誘導が可能かどうか実験を試みる。さらに誘導されるドーパミン作動性ニューロンと運動ニューロンの候補に対し、ドーパミンの分泌や電気生理学的な特性を解析することで機能解析を行う。この時、iPS細胞や神経幹細胞から分化させたこれらの神経細胞と比較することで、その機能性を比較する。また、これらの候補について網羅的な遺伝子発現解析を行い、これら神経細胞サブタイプに特徴的な遺伝子が活性化していることを証明することで、今後の創薬研究や臨床応用が可能かどうか、遺伝子発現の観点から検証する。最終的に、年齢や性別の異なる複数のヒト線維芽細胞株に対し、最も効率よく誘導可能な低分子化合物の組み合わせと培養条件について決定することを目指す。
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