研究課題/領域番号 |
19K12791
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内山 孝憲 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50243324)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | スティフネス / 重心動揺 / 腓腹筋 |
研究実績の概要 |
人にとって直立姿勢の維持は基本的な動作であるにも関わらず,その制御メカニズムは未解明である.直立姿勢の維持には,足関節と足関節まわりの下肢筋のスティフネスが関わっている,スティフネスの推定方法には,対象者を板の上に立たせて,板を突然動かす方法しかなく,平均的なスティフネスを推定できるのみであった.下肢筋のスティフネスは,筋の長さや筋活動に依存する.筋の長さや筋活動の変化は,床反力計で計測できる足圧中心(重心位置の鉛直投影)に反映される.そこで本研究では,足圧中心の変位と速度を統制して,直立姿勢における下肢筋のスティフネスを推定する方法を開発した. まず,腓腹筋に一定間隔で電気刺激を与えて,足圧中心の位置を計測した.位置から速度を数値微分を用いて求め,位置と速度に基づいて,電気刺激を与えたときの足圧中心の応答を分類した.分類した応答波形を,電気刺激を基準にして同期加算平均したのち,システム同定法を用いて,電気刺激を入力とし,応答波形を出力とする伝達関数と求めた.伝達関数から,腓腹筋のスティフネスを推定した.また電気刺激を与えないで筋電を計測して同様に分類した.その結果,足圧中心の位置が前方向にあるときにスティフネスは大きく,また後方に移動するときに大きいことを明らかにした.このスティフネスの位置と速度依存性に類似の傾向を示す筋電は,分類した位置および速度に対して,0.3秒前のものであった. 筋のスティフネスについては,筋の長さが影響する.そこで,腓腹筋を伸展させるために,床反力計の上に傾斜台を置き,その上に対象者を立たせて,電気刺激を与えたときの腓腹筋のスティフネスを計測した.その結果,背屈角度の増加に伴い,筋のスティフネスは減少したのち,再び増加することを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
足圧中心の位置と速度を統制して,下肢筋のスティフネスを推定する方法を開発した,また,足圧中心の位置が体の前にあるときにスティフネスが高いことは,従来の研究と一致している.足圧中心の速度が後ろ向きのときにスティフネスが高いことを明らかにした.これは,足圧中心の位置が前にあり後方への速度を持っているときに,腓腹筋が伸展するパラドックスについて,筋の伸展と高いスティフネスによって大きな弾性力を発揮することができるので,姿勢の安定化に寄与する可能性を示している. 筋電については,位置と速度で表される位相空間において,姿勢の間欠制御理論を支持する結果を得た,
|
今後の研究の推進方策 |
下肢筋のスティフネスの推定においては,平成31年度に開発した解析方法を引き続き用いる. 姿勢の制御には,視覚が影響する.そこで,視覚の影響を取り除くために,閉眼で同様の計測を行う,また,視覚に体性感覚と矛盾する情報を提示して同様の計測を行う.具体的には,ヘッドマウントディスプレイを用いて,歩行中に映像など,静止立位とは異なる動作で撮影した映像を対象者に提示する.この実験に先立って,ヘッドマウントディスプレイを装着することが姿勢制御に影響する可能性を検討するため,静止画を対象者に提示して計測する. 足関節のスティフネスの推定については,信号処理方法に改良を加える.電気刺激によらない対象者自身の本質的な足圧中心の揺らぎを取り除く方法が鍵となる.
|