研究課題/領域番号 |
19K12793
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研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
古澤 和也 福井工業大学, 環境情報学部, 准教授 (00510017)
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研究分担者 |
大能 俊久 福井工業大学, 環境情報学部, 准教授 (60390902)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腸-肝相互作用 / 組織間相互作用 / 再生腸上皮組織 / 再生肝組織 / 組織工学 |
研究実績の概要 |
本研究では複雑な階層構造を持つ異種の再生組織を血管や神経を介して機能的に接続したインビトロの生体システムを構築し、これを用いて異種組織間の相互作用を明らかにすることを目的としている。具体的には、再生腸上皮組織と再生肝組織とを組み合わせたインビトロ生体システムを構築し、腸-肝相互作用を解明する。昨年度の研究で腸陰窩構造を持つ再生腸上皮組織を構築することに成功した。また、再生肝組織と再生腸上皮組織とを接着させた複合組織の構築にも成功した。今年度は、本生体システムの共培養がそれぞれの再生組織に与える影響を明らかにすることに取り組んだ。 再生腸上皮組織と再生肝組織で構成されるインビトロ生体システムを一定期間共培養し、MUCとCYP3A4の免疫蛍光染色を行った。その結果、MUCは再生腸上皮組織で特異的に発現していたが、CYP3A4は再生腸上皮組織と再生肝組織の両方で発現が見られた。HepG2ではCYP3A4の発現が強く、Caco2ではCYP3A4の発現強度が弱いこと過去の研究で知られているため、免疫蛍光染色で二つの組織を染め分けることができると期待していたが、結果はそうならなかった。再生腸上皮組織中のCaco2のCYP3A4の発現強度が再生肝組織中のHepG2と同程度発現した理由として、二つの組織の共培養がCaco2のCYP3A4の発現を上方制御したことが考えられる。この仮説が正しければ、本研究で構築したインビトロ生体システムにおいて腸-肝組織間相互作用が現れていることになる。また、インビトロ生体システムの機能評価のために、経上皮抵抗(TER)とアミノ酸代謝の測定も試験的に開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再生肝組織と再生腸上皮組織の二つの再生組織でできたインビトロ生体システムに対する、MUCとCYP3A4の免疫蛍光染色を行った結果、MUCは再生腸上皮組織でのみ発現しているが、CYP3A4は両方の組織で発現していることが分かった。再生腸上皮組織中のCaco2のCYP3A4の発現強度は、二つの組織の共培養によるCaco2のCYP3A4の発現を上方制御に起因している可能性がある。より詳細な研究が必要であるが、二つの組織の共培養による組織間の相互作用を示唆する一つの結果を得ることができたと言える。 本年度は、構築したインビトロ生体システムの機能評価にも取り組んだ。一つは、経上皮電気抵抗(TEER)の測定で、インビトロ生体システムの再生腸上皮組織のバリア機能を評価するために行った。実験の結果、62 ohm/cm2のTEERを測定することができた。測定値としては単層のCaco2の文献値よりも低い値となったが、今後はインビトロ生体システムの機能評価の指標の一つとしてTEERが利用できることを示す成果の一つとなった。 もう一つの機能評価として、再生肝組織のアミノ酸代謝機能を評価した。実験では、ボイデンチャンバー内に配置した再生肝組織を培養液中で1日培養し、培養上清中のアミノ酸濃度を全自動アミノ酸分析機を使って定量評価した。実験の結果、グルタミンからグルタミン酸への代謝、セリンからグリシンへの代謝、オルニチンの増加などについて有意な差を観測することができた。この結果も、インビトロ生体システムの機能評価の一つとしてアミノ酸代謝機能が利用できることを示す成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
再生肝組織と再生腸上皮組織の共培養が、再生腸上皮を作るCaco2のCYP3A4の発現を上方制御するのかどうかについて、それぞれの再生組織のみを継続培養した時の免疫蛍光染色の結果と比較することで明らかにする。ウェスタン・ブロット法などのタンパク質の発現量の定量分析での比較も検討する。インビトロ生体システムおよび再生腸上皮組織のTEERの経時変化を測定することで、再生腸上皮組織のバリア機能に再生肝組織との共培養が及ぼす効果を調べる。この結果より、腸-肝相互作用が、腸上皮組織のバリア機能に与える効果を明らかにする。同様に、インビトロ生体システムと再生肝組織のアミノ酸代謝機能の比較を行う。この結果より、腸-肝相互作用が、肝機能に及ぼす影響を明らかにする。 肝組織および腸上皮組織のそれぞれに影響を及ぼすと考えられている栄養成分(オルニチンなど)を、インビトロ生体システムの培養液中に添加し、TEERやアミノ酸代謝機能を調べることで、食品中の栄養成分が組織間相互作用に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大のため学会出張に関わる費用の支出がなくなったため。 また、残りの予算が本研究課題に必要な物品を購入するために必要な予算に満たなかったため。
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