本研究課題では、合成由来の既存吸収性縫合糸に比べ、緩やかに生分解・吸収され、さらに生分解・吸収に伴い抗菌性分子を徐放する新しいシルクフィブロイン縫合糸の創出を目指して各評価・検討を進めてきた。最終年度は、アルコール水溶液処理やオートクレーブ(AC)処理の有無、またその温度がシルクフィブロイン糸表面近傍のタンパク質二次構造、生分解性や抗張力など、糸の特性に与える影響を引き続き調べた。さらに、各処理を施したシルクフィブロイン縫合糸のラット皮下への埋入を行った。in vivo生分解試験後の抗張力は、in vitro生分解試験での生分解後の抗張力変化と同様の傾向が認められた。 また、糸に対するAC処理中に共存させシルクフィブロイン糸へ固定化が可能な熱耐性を有する抗菌ペプチドを設計した。シルクフィブロインとの相互作用への影響を比較するため、カチオン性残基の導入数を変えた各ペプチドをFmoc固相合成法により合成した。各ペプチド溶液中でシルクフィブロイン糸をAC処理することにより固定化を行った。シルクフィブロイン、ペプチド分子の安定構造解析によりカチオン性配列の有無やその鎖長が異なるペプチドのシルクフィブロインへの固定化メカニズムを詳細に評価した結果、シルクフィブロインへの固定には、ペプチド-シルク間の静電的な相互作用だけでなく、両分子に含まれる芳香環同士の相互作用も寄与している可能性が示唆された。またリン酸緩衝液中での放出試験では、緩やかなペプチド分子の放出が認められた。
|