研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの感染行動の解析と分類をおこない次の1,2の成果を得た. 1. 人工細胞表面の作製.これまでの人工細胞表面は,ウイルス受容体としてシアロ糖タンパクであるフェツインを使用していた.しかしフェツインのような天然物だと,ウイルスヘマグルチニンの結合部である糖鎖末端のシアロ酸の型や表面のシアロ糖鎖密度を制御できない.そこで精製シアロ糖鎖をアルブミンを介してガラス表面に吸着する技術を開発した.使用した精製シアロ糖鎖は2種類あり,ヒトウイルスの受容体であるα2,6結合型シアロ糖鎖と受容体とされていないα2,3結合型シアロ糖鎖である.これにより,受容体の種類や密度をコントロールしてウイルス行動を解析することが可能になった. 2. 人工細胞表面におけるウイルス行動の解析と分類.1の人工表面を使いヒトを宿主とするインフルエンザウイルスの感染行動(運動)の解析をおこなった.その結果,5種類中4種類のウイルスがα2,3型シアロ糖鎖固定表面でよく運動し,α2,6型シアロ糖鎖固定表面では動かなかった.ヒトウイルスの感染がおきる呼吸器上皮では,感染の標的になる非繊毛細胞には,α2,6型シアロ糖鎖が多く,周辺の繊毛細胞にはα2,3型シアロ糖鎖が多いとされている.今回得られた結果は,ウイルスがα2,3型シアロ糖鎖を運動用につかい非繊毛細胞へと移動し,非繊毛細胞表面では,α2,6型シアロ糖鎖にしっかりと結合することでエンドサイトーシスを受けやすくし,細胞に侵入していることを示す.ウイルスが,異なる型のシアロ糖鎖を用途別に使い分けていることは,インフルエンザウイルスの感染現象全体の理解にとって新たな発見であり,ウイルス行動の見地からもインフルエンザウイルスがより高度な行動制御機構を持つことを示す重要な情報である.
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