研究実績の概要 |
最終年度に実施した研究において,インフルエンザウイルスの行動制御に関し次の成果を得た. 人工細胞表面におけるウイルス行動の解析と分類.インフルエンザウイルスの受容体であるα2,3型およびα2,6型シアロ糖鎖をアルブミン分子に結合させた人工ウイルス受容体をガラス表面に結合させた人工表面を使い,ミズトリを宿主とするインフルエンザウイルスの感染行動(運動)の解析をおこなった.その結果トリウイルスは,①α2,3型シアロ糖鎖表面でよく動き,α2,6型シアロ糖鎖表面で動かないもの,②α2,3型シアロ糖鎖表面で動かず,α2,6型シアロ糖鎖表面でよく運動するもの,③α2,3型およびα2,6型シアロ糖鎖表面の両方で動かないものに分類された.①のタイプはヒトウイルスに近い運動パターンである.①のタイプのウイルスは方向性を持った運動を行っており,トリウイルスはヒトウイルスに比べより高度な運動制御を機構を持つ可能性が示唆された.さらに,①タイプの運動パターンのトリウイルスのヘマグルチニンとノイラミニダーゼを持つウイルスをリバースジェネティックス法により作製し,ヘマグルチニンとノイラミニダーゼに変異を導入したウイルスの運動解析を行った.これにより運動パターンの人為的操作がある程度可能になった. 本研究期間全体では次の成果を得た. インフルエンザウイルスの感染行動解析により,ヒトウイルスに近い行動パターンのウイルスがトリウイルスの中に存在することが明らかになった.これまでミズドリを宿主とするウイルスは,ヒトへ感染しないと考えられていた.しかし,ヒトへの感染が可能なウイルスがトリウイルスの中にすでに存在することが示された.またリバースジェネティックス法によりトリウイルスのヘマグルチニンとノイラミニダーゼを有し方向性を持った運動を行うウイルスを作製した.これによりウイルスの行動の人為操作が可能になった.
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