研究課題/領域番号 |
19K12814
|
研究機関 | 公益財団法人国際科学振興財団 |
研究代表者 |
関 禎子 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 研究員 (90773309)
|
研究分担者 |
赤池 敏宏 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 主席研究員 (30101207)
後藤 光昭 公益財団法人国際科学振興財団, その他部局等, 主任研究員 (80235001)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | カドヘリン / AFM / 細胞培養 / キメラ抗体 / QCM |
研究実績の概要 |
再生医療の実現には、細胞ソース、培養方法、分化誘導方法、大量培養方法など未だ解決すべき問題がある。特に、細胞培養は再生医療の研究開発で最も重要な技術であり、中でも細胞培養用マトリックスは細胞の増殖や分化誘導に決定的な影響を及ぼすことが知られている。従って、標準化された培養基剤と細胞基質(ディッシュ表面)が不可欠で有り、系統的に評価する必要があると認識する。今回、ディッシュ表面に、我々が設計・開発してきたキメラ型抗体E-カドヘリン-Fc(E-cad-Fc)タンパク質をコーティングし、その表面の吸着状態・機能発現等について解明し、基板コート標準化材としての可能性を評価する。 本研究では細胞培養基材である培養ディッシュのナノメートルレベルでの構造と機械的特性(弾性率)、分子レベルでの化学的特性(官能基)を系統的に評価しようとするものである。その上で、さらにディッシュにタンパク質やポリマーをコーティングした場合の吸着態を精査するとともに、コーティング表面の機能および細胞への影響を解明するのが目的である。 今回、ディッシュ表面にコートしたE-cad-Fcの吸着状態を調べるために、モデル基板を作製し、AFMおよびQCMにより解析を行った。モデル基板上で行ったのは、実際のディッシュ表面では凹凸が大きいため、タンパク質の解析が困難であるからである。その結果、タンパク質濃度、Caイオンの有無による吸着状態の違いを検出できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、E-cad-Fcをコーティングした培養ディッシュ表面状態を解析するために、①モデル基板を作製し、②そのモデル基板上での吸着状態の解析、および③E-cad-Fc分子のAFM観察、を行った。 ①ディッシュの素材であるポリスチレンを基材としたモデル基板を、ポリスチレンの分子量、溶媒、濃度等最適条件で作製できるようになったが、液中でAFM測定すると表面に吸着する気泡が問題となった。材料の純度を上げる、クリーンな環境での保管、測定液の脱気等により、ある程度問題は解決した。②タンパク質の吸着状態は、液中AFM観察で、形状に加えプローブとの吸着力を指標に判断できることがわかり、形状像に比べ、より明確となった。QCMでは、Caイオンの有無とEDTA添加によるカドヘリン結合の解離を確認できた。また、E-cad-Fcコーティングの表面被覆状態について、AFMとQCM両者の結果が定量的に一致したので、これらの実験結果は信頼できるものと考えれる。③モデル基板上でのタンパク質の吸着状態を解明するには、E-cad-Fc分子の液中での形状を知る必要があるため、ポリスチレン基板より更に平坦なマイカ上でE-cad-Fcの形状をAFMで観察した。カドヘリンの結合に関しては、今まで(平行な)シス結合で二量体になったカドヘリンが、もう一つの二量体とトランス結合すると言われていたが、今回の観察により、シス結合せずにトランス結合できることが明らかになった。これは、ディッシュにE-cad-Fcをコーティングする際に非常に重要な知見となる。このように、分子レベルでの液中でのE-cad-Fcの観察に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
実際に培養に用いられるディッシュ表面を評価し、E-cad-Fcをコーティングした場合と比較する。更にコーティング状態を変えたディッシュ上で細胞培養し、接着性など細胞特性を評価する。これにより、効率のよい最適なコーティング方法を見つけ、基板コート標準化材としての可能性を評価する。 1)各メーカの培養ディッシュ表面の形状や分子レベルでの化学的特性を評価する。液中での最表面、つまり数ナノメートルレベルの固液界面の評価方法を模索する。2)E-cad-Fcをコートしたディッシュで細胞培養を行い、タンパク質濃度、Caイオンの有無等最適条件を見つける。3)ラテックス粒子吸着評価法を検討する。ラテックス粒子に安定的にE-cad-Fcをコートする条件をDLS(動的光散乱法)等により確立する。また、ラテックス粒子の化学的性質やサイズも検討する。そのラテックス粒子のE-cad-Fcコートした基板への吸着状態を評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
発注した消耗品の一部が発注先の生産の都合で納期が遅れ納品できなかったため。今期は代替品を使用し、この消耗品は次年度に使用する。
|