研究実績の概要 |
これまでわれわれは、重度起立性低血圧治療のため、硬膜外カテーテルを用いた人工圧反射装置を開発してきた。これを発展させ、交感神経路のより上位中枢を電気刺激できないかを検討したところ、パーキンソン病治療における深部脳刺激法を用いた方法を着想し、人工血管運動中枢を設計した。この研究中に、症例によって刺激から血圧への反応に違いが認められ、視床下核内の刺激電極の位置の違いによることが推測された。今回、刺激部位の違いによる血圧の反応性を評価し、より効率的な人工圧受容器反射システムを設計する。 H31(R1)年度は手術時に用いた前交連-後交連の中点を基準として前後方向、横方向、上下方向の距離を計測し、電極先端位置を評価することとした。R2年度は、側方距離をAC-PCラインからの距離、垂直方向を中脳水道からの距離、前後方向を橋前面からの距離とし血圧への応答性を解析し一定の傾向を認めたが、R3年度は、垂直方向を橋・大脳脚切痕からの距離とし再計測した。また、測定値を脳全体の大きさで補正し検討した。ランダム刺激をした症例では、側方に有意な差は認めなかったが、電極が上方(補正値)に挿入されているほど刺激-血圧反応の定常ゲインは大きく(r^2:0.645, p<0.01)、後方ほど大きい傾向が認められた(r^2:0.438, p=0.052)。このことより、反応ゲインを平均値の0.015から0.04(mmHg/Hz)まで上昇させることができ、より効果的な制御が可能であると考えられた。起立負荷症例では、刺激により血圧低下が抑制された症例(応答あり)は応答なしの症例に比して、より側方である傾向が認められた(0.097±0.013 vs 0.088±0.014)。今回の検討では、ランダム刺激症例と起立負荷症例では刺激部位の違いが認められたが、より外側、上方、後方の刺激で効果が大きい可能性が示唆された。
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