本年度は、昨年度に引き続きアーチファクト除去に関する研究を中心に行った。実施したものはピンホールSPECTシステムで収集された投影データの散乱線の定量ならびにその除去に関する問題とピンホール径に影響されるぼけの除去の問題である。また、ピンホールSPECTで実現する動態解析に関しても研究を行った。上記のガンマ線の散乱線の問題に関しては、モンテカルロ法による光子計算で厳密に投影データを計算し、散乱線が画質に及ぼす影響を再構成画像などから明らかにした。ピンホール径が有限であることによる再構成画像に発生するぼけの問題に関しては、シフトバリアントなモデルを考慮したデコンボリューション法に基づいたぼけの除去ならびに深層学習を用いた投影データ上のぼけの除去を実施した。この結果、両者ともに再構成画像の画質が向上し、従来から提案されていた7rays法の結果を大幅に上回る画質改善が実現できた。また、動態解析に必要となる時間放射能曲線に関しては、シュミレーションで計算するところまではできたものの、その高精度な推定を深層学習を用いて実施するところまでは時間の関係で実施することができなかった。 研究期間を通しての研究実績に関して以下に述べる。マルチピンホールSPECTシステムの設計要件に関してはモンテカルロ計算を駆使しておおよそ明確になったといえる。しかし、この要件自体は、画質改善方法、すなわちピンホール径やデータ収集時間とも絡み、画像処理技術で画質改善が可能となれば要件の内容も変化するため、本研究課題ではデータ収集時の感度と空間分解能の2つの観点からさまざまなアプローチによって解決を試みた。動態解析の時間放射能曲線の深層学習を用いた精度向上に関しては十分検討できなかったため課題が残った。基礎実験等に関しては研究協力の体制が変化したために実施することはできなかった。
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