研究課題/領域番号 |
19K12853
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
竹内 正明 産業医科大学, 大学病院, 准教授 (30236434)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 3次元心エコー / 左室・左房容積比 / 正常値 / 予後予測能 |
研究実績の概要 |
心エコー図検査は、非侵襲的かつ、広く普及していることより、心臓病患者の治療管理や予後予測、デバイス移植術の適応決定時に必要不可欠な検査法である。3次元心エコーは各種心機能計測時に2次元心エコーのように幾何学的仮定を必要としないため、心臓MRI検査同様、心腔容量の測定に優れた検査法とされている。 私達は左室・左房容積比 (LV/LA volume ratio) という新たな心機能指標を提唱した。LV/LA volume ratioは、左室の収縮能のみならず、拡張能特性をも内包した指標であり、既存の心機能指標より病態診断、予後予測に有用である可能性がある。最近3次元心エコー図画像を用い、左室、左房の容積曲線を作成する定量ソフトウェアが開発された。本研究の目的は、①心臓MRIを基準とし、本ソフトウェアの至適な設定を決定し、②前向きに収集した健常者3次元画像データからLV/LA volume ratioの正常値を求め、③後ろ向きに収集した3次元画像データを用いて、心疾患患者に対するLV/LA volume ratioの予後予測能を既存の心機能指標と比較検討することである。 前年度までに目的①に関しては既に論文化し( PLoS ONE 2019;14:e0211154)、目的②に関しては対象を後ろ向きに変更し、解析ソフトウェアを異なるものを用いることで論文を作成し受理されている( Physiol Rep 2019;7:e14300)。当該年度は目的③を検証することであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目的③を検証するためにLV/LA volume ratioの予後予測能を後ろ向きに検討した。対象は臨床的にCMR検査が依頼された患者で、CMR検査の前に、3次元心エコー図画像を収集することに同意した408例である。このうち3次元全自動解析ソフトウェアが使用できない超音波装置で画像が記録された50例、心室性期外収縮が多発し評価が不可能と考えられた2例、追跡期間が1ヶ月未満の25例、計66症例は対象から除外し、最終的に342例を研究対象とした。解析は当初の目的通り、3次元心エコー図画像に3次元全自動解析ソフトウェアを適応し、得られた拡張末期左室容量、収縮末期左室容量、左室駆出率(LVEF)、拡張末期左房容量、収縮末期左房容量、左房駆出率(LAEF)の測定結果を用いて、拡張末期LV/LA volume ratio(LVLAVRed)、収縮末期LV/LA volume ratio(LVLAVRes)、両者の差(Delta LVLAVR)を各患者で計算した。全自動ソフトの有用性を検証するために全症例において計測結果には全く修正を加えなかった。結果: 342例中、25例は著しい画質不良のため3次元心エコー図画像は収集されず、また他の10例は全自動解析が不良であり、feasibilityは90%であった。中央値21ヶ月のフォローアップ中43例で心血管イベントが発生した(心臓死: 13例、心室頻拍等の重症不整脈: 3例、心不全による入院: 27例)。単変量Cox比例ハザード解析ではLVLAVRed、Delta LVLAVRは有意な予後予測因子であり、両者の中央値を用いて患者を2群に分けると、生存曲線に有意差を認めた。多変量解析ではDelta LVLAVRは年齢、慢性腎臓病、左室収縮能あるいは拡張能で補正しても有意な予測因子であった。以上の結果をまとめ、論文を作成し、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的は概ね完結した。今後ある特定の疾患に限って、左室拡張末期LV/LA volume ratio、delta LV/LA volume ratioの予後予測能を検討することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍(SARS-CoV-2)のため当初計上していた旅費を全く使用することがなかった。このため前年度までの105万円が使用されなかった。また当該年度の50万円も旅費と指定使用する可能性は極めて低い。現在投稿している論文が受理された場合、フリーアクセスに要する論文出版費等に予算を使用する予定である。
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