研究課題/領域番号 |
19K12858
|
研究機関 | 富山県産業技術研究開発センター |
研究代表者 |
寺田 堂彦 富山県産業技術研究開発センター, その他部局等, 主任研究員 (10454555)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 血中循環腫瘍細胞 / ナノファイバー / ポリエーテルスルホン |
研究実績の概要 |
血中循環腫瘍細胞(CTC)とは、腫瘍組織から遊離して血中へ浸潤した腫瘍由来の細胞であり、有用なバイオマーカーとして注目されている。不均一なCTCの中には、幹細胞性を持った血中循環腫瘍幹細胞(CTSC)がわずかに含まれており、このCTSCは癌の転移・再発に深くかかわっているため、選択的に採取して、解析に供することが可能となれば、癌の転移・再発を抑制するための薬剤スクリーニング、治療法の選定、あるいは、新薬開発等のために非常に有用なツールとなる。本研究では、抗原分子の発現が低いCTCであっても高い確率で捕捉し、かつ、捕捉した不均一なCTCの中から、任意の一細胞、特にCTSCのみを選択的に回収する技術の確立を目的とする。 本年度は、中間目標としたナノファイバーフィルターの開発を行った。将来的に臨床で使用可能なデバイスを開発するためには、既に臨床における使用実績を有する材料を用いることが望ましいと考え、ポリエーテルスルホン(PES)を素材としてナノファイバーの作製に取り組んだ。PESは血液適合性材料として臨床での使用実績がある上、高耐熱性材料としても知られている。PESのエレクトロスピニング法に関する先行論文を参考に、紡糸条件の検討を重ね、直径100 nm前後の比較的均質なPESファイバーが紡糸できることを見出した。PESファイバーに関する先行論文を調べた限り、これまでに報告例のない細さに到達している。 一方、臨床での使用を目指すうえで、滅菌が可能か否かは、デバイスに求められる重要な性能である。上記PESナノファイバーの滅菌可能性を確認するために、日本薬局方に規定された条件において乾熱滅菌処理を施し、ファイバー形態の変形、破断等の有無を観察したところ、乾熱滅菌処理の前後で形態の変化は認められなかった。PESの有する高い耐熱性は、ナノファイバーという材料形態でも保持されることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したとおり、本年度の目標としていたナノファイバー基材の作製を達成することができた。しかし一方で、ナノファイバー表面に水溶性ポリマーをグラフトし、複数種の抗体を固定することを目指していたが、PESナノファイバーの作製に時間を要したため、その表面修飾までには至らなかった。ただし、この点に関しては既に予備的検討を進めており、早期に実現可能であると考える。具体的には、PES表面への官能基(アミド基)を導入し、そのアミド基を介したポリエチレングリコール鎖(PEG)のグラフトを計画している。このPEGは片末端にスクシンイミドエステルを有しており、他の末端はビオチン化されている。グラフトされたPEG末端のビオチンに、アビジンを介して抗体を固定できることは既に確認できており、その評価法および評価装置についても準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策に変更はない。研究計画のとおり、ナノファイバーの表面にPEGをグラフトし、PEG末端に固定した抗体による細胞捕捉実験へと段階を進める。それと同時に、外部刺激に応答して、捕捉した細胞を脱離する機構の構築を目指す。具体的には、金ナノロッド等の有するフォトサーマル効果を利用した方法、あるいは、デスチオビオチンとビオチンとの交換反応等を候補機構として検討する。上記ナノファイバーと組み合わせることにより、標的細胞の高感度な捕捉と選択的な脱離を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大による社会混乱のため、年度内に納品される予定の輸入製品が納品されず、支払いが次年度となった。当該製品は既に納品されたため、使用計画に変更は生じない。
|