血中循環腫瘍細胞(CTC)とは、血中へ浸潤した腫瘍由来の細胞であり、有用なバイオマーカーとして注目されている。不均一なCTCの中には、幹細胞性を持った血中循環腫瘍幹細胞(CTSC)がわずかに含まれており、このCTSCは癌の転移・再発に深くかかわっているため、選択的に採取して、解析に供することが可能となれば、癌の転移・再発を抑制するための薬剤スクリーニング、治療法の選定、あるいは、新薬開発等のために非常に有用なツールとなる。本研究では、抗原分子の発現が低いCTCであっても高い確率で捕捉するためのナノファイバーフィルターの開発、そして、捕捉した不均一なCTCの中から、任意の一細胞、特にCTSCのみを選択的に回収する技術の確立を目的とする。 初年度には、ポリエーテルスルホン(PES)を素材として、これまでに報告例のない細さのナノファイバーの作製に成功した。PESは、その分子構造中に易反応性の官能基を持たないため、CTCを捕捉するための抗体をナノファイバーの表面に固定することは容易ではない。そこで、酸素プラズマ処理により、化学修飾反応の標的となり得る官能基をPES表面に発生させることを試みた。その結果、非常に温和な処理条件であれば、ナノファイバーの形態を維持しながら、PES表面にカルボキシ基を発生させ得ることを確認した。この官能基に対して、いくつかの工程を経て蛍光色素を結合させたところ、PESナノファイバーの蛍光発色が確認されたことから、PESナノファイバー表面の官能基は、化学修飾反応の標的として機能することが確認された。さらに、同官能基に上皮細胞接着分子に対する抗体(坑EpCAM抗体)を結合させ、ヒト由来の株化ガン細胞(MCF7細胞)の捕捉実験を実施したところ、未修飾PESナノファイバー(1.8 %)よりも高い確率(99.1 %)で標的細胞を捕捉し得ることが示された。
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