素早い視線移動(衝動性眼球運動=サッケード)を行なっても、視界が安定しているのは、生来サッケード中の視覚は抑制されている(視覚フィードバックがかからない)ためである。このため、サッケード信号の生成は、間欠性外斜視のグループと斜視のないグループに、生来ほとんど差がないという仮説のもと、以前我々が行なった研究では、間欠性外斜視の成人は斜視のない成人と比較して水平方向のサッケード速度が大きいという特徴があった。しかし、本研究で4歳から12歳までの間欠性外斜視(未治療)の小児グループ(39名)と斜視のない小児グループ(10名)のサッケードを比較したところ、両群でサッケードの速度に有意な差はなかった。このことは、間欠性外斜視のサッケードの特徴は先天的なものではなく、成長に従って徐々に形成されるものであると考えられた。 また、間欠性外斜視の小児は斜視のない小児と比較して、眼球を内側に向けるサッケードが弱い傾向にあり、輻湊(両眼を内側に寄せる眼球運動)の強さとの関連が考えられる。 同様に、間欠性外斜視の小児と斜視のない小児で動くものに対して視線を追従させる眼球運動(追従性眼球運動=パシュート)は、両群でパシュートのGain(物体の移動速度に対する視線の移動速度の比率)に有意な差がみられなかった。パシュートを行なっているときは、サッケードとは異なり常に視覚フィードバックがかかるため、間欠性外斜視で斜位をどの程度保てるかに依存し、年齢や先天的な要素は少ないと考えられた。 本研究は、0歳から12歳までの小児を対象としていたが、0歳から3歳の小児については、頭部固定タイプのアイトラッカーでは計測ができなかったため、ウェアラブルタイプの乳児用アイトラッカーを作成した。しかし、0歳から3歳の乳幼児(7名に実施)の視線計測は困難を極めたため、さらにアイトラッカーの改良を必要とする結論に至った。
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