研究課題/領域番号 |
19K12862
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西澤 公美 信州大学, 学術研究院保健学系, 准教授 (90573379)
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研究分担者 |
中村 昭則 信州大学, 医学部, 特任教授 (10303471)
濃沼 政美 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (50385978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 唾液中乳酸濃度 / 血中乳酸濃度 / 筋疲労 |
研究実績の概要 |
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne型筋ジストロフィー;以下,DMD)は筋疲労を起こすことで症状が進行する疾患であるが,運動量の制限に関する定量的な基準がない.現在は,運動を行った後に生じた痛みを目安に運動量や運動時間を制限しており,DMD児が安全に運動するための適切な運動量の設定は喫緊の課題である.特に小学校での体育の参加方法に関して,担任から「症状を悪化させない運動量の見極めがわからない」との問い合わせが頻発する.この問題に対し現在は,運動を行った直後から翌日までの間に患者に痛みが生じた場合は運動量を減らすという対応をとっているが,患児に痛みを生じさせない限り運動量が決まらない点が大きな課題である.運動を行う時点で運動量を決定できないことは,患児自身は動きたいと思っていても不必要に運動を制限される事態や,痛みや疲労で困っていても周りからは「甘えている」と勘違いされる状況を招く.そこで本研究の目的は,筋疲労の指標である乳酸値を唾液から測定することで,DMD児が学校体育で行う各運動種目の筋疲労度を非侵襲的に明らかにすることである.本研究によりDMD児が学校体育でどの程度の筋疲労を生じているかを把握できれば,本人および学校に対し明確かつ具体的な運動指導が可能になるとともに,DMD児の運動制限の基準策定に大きく貢献する. 本研究では,まず健常成人にて唾液中乳酸と血中乳酸を関連付ける式を考案し,それを元に健常児,DMD児への応用を計画している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では最初の段階として、健常成人男性6名を対象として、1分30秒間のスクワットジャンプ運動の実施前後に、血中・唾液中乳酸値の測定を行なった。また、予測式に取り入れる個人因子の抽出を目的として被験者全員の体組成分析を実施した。解析には、唾液中乳酸ピーク値から5分後の唾液中乳酸値を引いた低下量(ピーククリアランス)、年齢および唾液乳酸ピーク時の心拍数を説明変数とし、血中乳酸ピーク値を目的変数とした重回帰分析(強制投入法)を用いて、血中乳酸ピーク値の重回帰式を求めた。 得られた重回帰式は、血中乳酸ピーク予測値=-33.418(定数)+ピーククリアランス×(-5.421)+心拍数× 0.271+年齢× 1.055となり、自由度調整済み重相関係数の2乗は0.888であった(p=0.066)。実測血中乳酸値とこの式から算出した予測血中乳酸値との相関係数は0.98(p=0.001)と高い相関を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の結果から得られた重回帰式の自由度調整済み重相関係数の2乗は0.888であり、式の精度は高いと考えられた。説明変数としては、5分間で唾液乳酸値がピークからどの程度低下したかを示すピーククリアランス、年齢、心拍数を採択した。年齢や心拍数の上昇につれて血中乳酸ピーク値は上昇し、乳酸代謝が活発でピーククリアランスが大きいほど、血中乳酸ピーク値は低くとどまることが示唆された。 健常成人を対象に唾液中乳酸値を用いた血中乳酸値の予測式の確立を試み、上記予測式を得たが、重回帰式の分散分析に有意差は認められなかったことから、被検者数を増やして継続する必要がある。今後は、対象を健常児さらにはDMD患児へも拡大し、唾液中乳酸値を用いてDMD患児の運動制限に関する定量的な基準が制定できるよう研究を発展させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は被験者が予定より少なくなったことで消耗品費が減少したことと,論文作成や学会発表ができなかったことから,次年度使用額が生じた. 次年度は,追加実験や論文作成,学会発表などと併せて使用する予定である.
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