研究課題/領域番号 |
19K12919
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
金 慧 千葉大学, 教育学部, 准教授 (60548311)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国際法 / 熱狂 / 領有権 / 自己決定 |
研究実績の概要 |
今年度は、カントの法哲学、とりわけ国際法論の特徴を多角的な観点から明らかにするために、主に以下の二点について検討を行った。 1. 革命に対する観衆の熱狂:従来、公共圏という文脈におけるカントの議論の特徴は、識者が読書する公衆に向けて言論を通じて問題提起を行い、これをめぐって様々な意見が流通するという言論型の公共圏として把握されることが一般的であった。これに対して本研究では、フランス革命に対する当時のプロイセン市民の熱狂についてのカントの記述を分析し、熱狂の表明が言論を通じた公共圏とは異なる性格の公共圏を構成する可能性がある点を指摘した。また、こうした熱狂は、革命が共和制の創設という理念に向けられた情動である点を明らかにした。こうした分析は、国家の体制転換に対して他国がどのような対応を行うべきか、あるいは行うべきではないのかという国際法論上の一つの問題に対するカントの見解をも示唆している。 2. 非理想理論としての国際法論:カントの国際法論には理想理論と非理想理論のそれぞれに対応する箇所が存在することを指摘し、後者がどのような役割を担っているのかを分析した。非理想理論としての国際法論は『永遠平和のために』の「予備条項」にあたり、この条項の目的は、国家間紛争を解決する手段として必ずしも戦争に訴えることが禁じられていない状況下において、理想的な国際社会へと移行するために求められる国家の義務を提示することにある。カントはこうした議論のなかで領有権をめぐる問題を取り上げている。本研究では、領有権をめぐる紛争に対して国家に求められるのは、当該領土内に居住する住民の自己決定権と両立しうる対策であり、この意味でカントが描く理想的な国際社会像と、そうした状態への移行方法のいずれにおいても自己決定としての政治的自律が重視されていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、カント法哲学における革命と熱狂の関係について取り組んだ。熱狂が純粋な法概念に対して向けられる情動であり、こうした情動の表明が言論の交換によって構成される公共圏と異なる性格の公共圏、すなわち観衆の公共圏を構成すると結論づけ、論文にまとめることができた。 次に、カントの国際法論に関する研究を進め、国際法についてのカントの説明のなかには、理想的な国際社会における国際法はどのようなものであるべきかという記述と、非理想的な条件下において諸国家にどのような義務が課されるべきなのかという問題についての記述の二つの側面が見られると指摘した。また、後者の非理想的な状況における国際法の役割のなかでも、不正な領土の取得という不正義の問題に対してカントがどのような応答を行なっているのかを分析し、報告を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがって、カントの国際法論の分析を進める。その一つは、領有権をめぐる問題をカントの時代における国際法論と現代の政治哲学における論争の二つを往還しながら分析することである。近年、あらためて領有権の正当化根拠を問う研究が活発になされているが、そうした研究のなかでも、カントの議論によって領有権を正当化する立場が存在する。本研究では、領有権をめぐるカント主義の妥当性を吟味することによって、領有権の正当化根拠をめぐる議論の精緻化に貢献したい。また、カントの国際法論の独自性を明らかにするために、正戦論の伝統におけるカントの位置づけについて考察する。
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