2022年度においては、「自由主義と啓蒙」と題する概説的な文章が『啓蒙思想の百科事典』に収録され2023年2月に刊行された。そこでは、自由主義の来歴と多様性をロック、カント、スミス、ミル、トクヴィルなどの思想家にそくして概観し、その多様性にもかかわらず専制批判という点で共通性があることを指摘した。そしてこの専制批判という点で自由主義と啓蒙の政治が軌を一にすると論じた。 また、本研究課題の期間中に加筆修正を続けた「非理想理論としての国際法の構想ーー「予備条項」の役割をめぐって」と題する原稿をまとめ、日本カント協会が開催する予定のシンポジウムに応募した。この原稿では、まず国際法にかんするカントの記述には一見すると相互に矛盾するかのようにみえる複数の見解が含まれているものの、これは決して矛盾や一貫性の欠如のためではないと指摘した。国際法についてのカントの記述には、伝統的な国際法、移行期の国際法、理想的な国際法の三つが含まれているのである。この原稿においては、このなかでも移行期の国際法に分類される「予備条項」に注目した。予備条項は、戦争への権利を許容する伝統的な国際法と、国家連盟による紛争の調停を構想する理想的な国際法とを架橋する役割を担っているという点で非常に特異な性格を有する国際法である。そして、領土をめぐるカントの議論を取り上げて、予備条項が一方では不正な領土の取得という問題を放置することなく、しかし他方では完全な解決を将来における公法としての国際法に委ねるという点で、移行期の国際法としての性格を有していることを明らかにした。
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