本研究は、カール‐オットー・アーペルの討議理論を再検討するものである。アーペルの討議理論は論証的討議を重視する半面、虚構的(フィクション的)言説を等閑視する傾向があった。本研究では、アーペルの討議理論に対して、虚構的言説を中心とするより広範な言説を捉えうるような拡張を試みた。具体的には、アーペルの討議理論が前提としている言語行為論に着目し、発語媒介効果の観点から虚構的な言説の倫理的責任を問うことの妥当性を論じるとともに、ハーバーマスのコミュニケーション的行為の理論と接続することを試みた。その上で、ヘイトスピーチに代表される差別的言説を、ある意味で虚構的なものとして扱う可能性を示した。
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