「自律(autonomy)」とは何か。それはいかにして達成されるのか。近年、この問いに対する伝統的な回答、すなわち「自律とは理性的な個人の自己決定である」という回答に対して、さまざまな疑義が寄せられてきた。その背景には、従来の自律概念が前提としていた(a)個人主義的ないし(b)理性主義的な哲学的立場に対する批判があった。本研究はこれらの批判を深刻に受けとめ、「信頼(trust)」概念に着目する独自のアプローチによって、(a')個人の能力ではなく、社会的に結ばれる「信頼」が自律を可能とすること、そして(b')「信頼」を醸成するのは理性的な推論だけでなく、感情的な交流でもあることを提示した。
|