研究実績の概要 |
本研究の目的は、哲学的行為論において未だそれほど導入されていない「身体性アプローチ」を展開することにある。本年度である2019年度は、四度の学会発表の機会を持ち、それによる実りの多い年度となった。学会発表のそれぞれの題目は、① “A Phenomenological, First-person, and Embodied Approach to Action”、② “An Anti-Humean Theory of Action: Causal Powers and Teleology”、③ 「行為論の概観、そしてデイヴィドソン的な標準的行為論に対する有望な代案」、④ “Intentions, Embodiment, and Causal Powers: through a First-Person Approach”である。 ①は行為論における身体性アプローチを具体的に展開したものであり、近年の現象学における成果も用いつつ、「意図は環境の方向性を変える」という見解を提示した。 ②は、本研究のサブテーマである「プロセス論」(これは三年度目に集中的に研究する予定のものであった)に関し、それを先取りする形で、新しい研究の方向性を切り開いたものであった。「因果パワー説」という因果論において最近注目されている理論を行為論に応用し、これは今後の本研究の進展にとって大きなインパクトをもたらす潜在性を秘める展開となった。 ③では一般の哲学者に向けて行為論を概説し、かつその上で自説を展開する依頼講演であった。 ④は、日本科学哲学会の年次大会において“Action and Agency after Davidson”というワークショップを共同主催した際の、個人発表であり、身体アプローチ、因果パワー説、さらには一人称アプローチといった本研究の複合的な要素を互いに関連づける俯瞰的な発表をした。
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