研究課題/領域番号 |
19K12930
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今井 悠介 慶應義塾大学, 文学部(三田), 訪問研究員 (70838531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 存在論 / デカルト / クラウベルク / 形而上学 / 近世哲学 / 近世スコラ哲学 / ヴォルフ / バウムガルテン |
研究実績の概要 |
17世紀初頭-18世紀半ばにかけて成立した学問である「存在論(オントロギアOntologia)」の生成、およびその展開を分析することで、「あらゆる存在者に備わる一般的性質」を探求するこの学問の可能性と射程を明らかにすることが本研究の目的であるが、本年度の成果は以下の通りである。 1)ヴォルフの「存在論(Ontologia)」における主要著作である、『第一哲学あるいは存在論(Philosophia Prima sive Ontologia)』(1730年)のテキストを、初版のラテン語原典に基づいて検討した。特に、「プロレゴメナ」における明晰判明性概念や、原理である矛盾律の導入における思惟への依拠など、初期存在論と比べデカルト主義的と思われる要素を中心に検討を加えた。対比項として念頭に置いたのは、初期存在論の中心的哲学者の一人であるクラウベルクの主著『オントソフィア』である。成果として、ヴォルフでは「知解可能なもの」や「存在者」などの基礎概念に先立って、矛盾律や充足理由律などの原理がまず論証されるが、この構造はティンプラーやアルステッド、クラウベルクら初期存在論と全く異なっていること、またそれが、ヴォルフが展開した旧来のスコラ的「存在論」批判と密接に結びついていることが明らかになった。また、原理の論証に「経験」が用いられるが、その「経験」はクラウベルク『オントソフィア』初版で用いられる経験概念と異なっていることが明らかになった。他方で明晰判明性概念に関しては、基本的な方向性としては『オントソフィア』第2版以降のものに合致していることが確認できた。 2)ヴォルフの「存在論」に関して、J. EcoleやJ-P. Paccioniらの先行研究を批判的に検討し整理した。ヴォルフの「経験」概念に関してはチルンハウスとライプニッツの影響を踏まえて考慮する必要があるという課題が浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度始めの予定通り、当初の計画を変更し、今年度はヴォルフの分析を中心に行なった。昨年度までの研究により、当初の計画で想定していたよりも初期存在論が重層的・多層的であることが明らかになったため、アルステッド、およびケッケルマンなど、初期存在論関連の研究も引き続き継続して行なっている。また、「デカルト主義」という要素自体が含む多様性の存在など、研究している過程で新たな課題も発生しているものの、ヴォルフにおいて当初計画していた箇所の分析は行うことができ、初期存在論のクラウベルク『オントソフィア』との比較も行うことができたので、今のところ研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はバウムガルテンの存在論の分析を中心に研究を遂行する。当初の計画では、初期存在論の分析によって得られた「存在論」の共通構造理解をもとに、デカルト主義の要素がどの部分で、どのように取り込まれたのかを分析する予定であった。しかし、本年度までの研究の進展によって、そもそもの初期存在論自体の重層性、多様で複雑な系譜関係の存在が明らかになってきた。そのため、ヴォルフの場合と同様に、初期存在論の共通構造と比較するという形式ではなく、バウムガルテンの存在論自体が初期存在論の系譜の中でどのような位置を占めるのかといった観点と共に、それに加わるデカルト主義的要素についての分析を行う予定である。本年度のヴォルフの分析においては、この初期存在論からの系譜におけるヴォルフの存在論の位置付けの検討を十分に行うことができず、初期存在論の中心的哲学者の一人であるクラウベルクとの比較対照のみに留まってしまった。したがって、来年度はヴォルフ、バウムガルテンの両者がどのように存在論の系譜に位置付けられるか、合わせて分析を試みる予定である。加えて、何をもって「デカルト主義」とみなすのか、といった点についてもより精緻に分析する必要があるという課題が本年度の研究によって浮き彫りになった。当初の「明晰判明」概念や、「思惟」や「論証」といった概念に加えて、「経験」概念や「学の主題」の規定の仕方など、比較・分析の観点や手法そのものを検証し、練り上げていくことによって研究をさらに推進させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行が今年度も引き続き継続しており、状況が安定していないことから、申請時に予定していた海外図書館での調査研究を取りやめた。また、国内開催の学会もオンラインでの開催が多かったため、主に旅費に残余分が生じた。しかし、海外交流は復調の兆しがあり、国内でも対面開催での学会・研究会が復活する見込みがあるため、来年度の海外図書館での調査が実現した場合の旅費、および国内の学会参加用の旅費として、来年度は使用したい。また、国際物流が不安定だったためにやや控え目になってしまっていた海外文献の購入も来年度は積極的に進めたい。
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備考 |
今井悠介「デカルト形而上学研究--存在論の系譜、主にクラウベルクとの対比のもとで--」、2022年。(学位論文、3月3日学位授与)
今井悠介、書評「ドゥニ・カンブシュネル(津崎良典訳)『デカルトはそんなこと言ってない』晶文社、2021年」、『図書新聞』、武久出版、3533号、2022年3月5日。
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