研究課題/領域番号 |
19K12934
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
高橋 厚 東洋大学, 文学部, 助教 (70817395)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 西洋中世哲学 / 自然哲学 / スコラ哲学 / アリストテレス / アヴェロエス / トマス・アクィナス |
研究実績の概要 |
2021年度は、研究実施計画を踏まえ、十二世紀スペインの哲学者アヴェロエス(イブン・ルシュド)の自然哲学の西欧における受容にかんして、十三世紀のキリスト教神学者であったトマス・アクィナスの『「天界について」註解』の分析・検討をさらに進めた。具体的な成果としては、「国際研究グループ:トマス・アクィナスとアラビアの哲学者たち」(The Aquinas and the Arabs International Working Group)(AAIWG)の国際会議にて、 「天体の魂と摂理:トマス・アクィナス『「天界について」註解』におけるアリストテレス主義宇宙神学の受容」(The Celestial Soul and Providence: Aquinas’s Reception of Aristotelian Cosmic Theology in his Commentary on De Caelo)と題する発表を行い、それを論文化したものを中世哲学史研究の国際的専門誌 Vivarium および日本語で書き換えたものを中世哲学会学会誌『中世思想研究』へと投稿した(後者についてはすでに修正後のアクセプトが決定している)。 また、単著『哲学者たちの天球:スコラ自然哲学の成立と展開』が、所属大学の助成基金に採択され、2022年度内に名古屋大学出版会から刊行されることが決定した。この出版の決定により、研究成果を専門家だけではなく、一般の読者層にも公表する機会を得たことになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究上未開拓な領域となっていた十三世紀の神学者トマス・アクィナスのコスモロジーとそこでのアラビアの哲学の受容について研究発表および二本の論文化を行うことができた。これらの成果により、これまでキリスト教神学の代表的な知識人と目されてきたトマス・アクィナスが、古代ギリシア・アラビアのアリストテレス主義の成果を批判的に吸収し、かつそれを組み替えることで西欧の自然哲学を変容させたことを証明することができた。また、最も重要な成果として期待されていた単著の刊行も決定した。この単著の出版により、中世哲学史研究の上で長らく空白となっていた自然哲学分野の理解が格段に深まることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究の中心は、次の三点である。①アルベルトゥス・マグヌスとトマス・アクィナスのアリストテレスの『形而上学』(ラムダ巻)における宇宙論を、アヴェロエスの自然哲学の受容という観点からさらに考察し、学会発表および論文化を行うこと。②2021年度までに行った作業を継続し、ジャンドゥンのヨハネスの『「天界について」問題集』の編集作業を進め、校訂版の出版に目処をつけること。③ジャン・ビュリダンの『「天界について」問題集』を、アヴェロエス主義の観点から読み直し、研究成果を国際誌に発表すること。①『形而上学』ラムダ巻は、アリストテレス主義の文脈でコスモロジーや生物学的な主題が論じられる特異なテクストとして影響を与え続けたが、いまだ十分な考察が為されていないのが現状である。特にアヴェロエスの自然哲学との関連性から考察することで、この研究現状が改善されることが期待される。②校訂版の出版は大変時間がかかる作業であるが、テクスト自体の文字起こしはほぼ終了しつつある。今後は複数の写本を参照することで、写本同士の関係についても考察を深める予定である。③ビュリダンのテクストについては、これまで「運動論」の観点から研究がなされてきたが、アリストテレス主義のコスモロジーの観点からの研究が不十分な状態だった。その研究を行うことで、ビュリダンの研究史を刷新することが目的である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって海外での調査を遂行することが困難となり、科研費分について残余が生じた。次年度使用分については、研究用書籍の購入に当てる計画を立てている。
|