1950年代から1960年代の日本における子どもの人体実験に関する歴史研究

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K12935
• 研究機関: 日本大学
• 研究代表者: 吉田 一史美 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (80736869)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 医学研究 / 人体実験 / 子ども / 日本 / 生命倫理

研究実績の概要

本研究では戦後の医学研究における人体実験について、社会的弱者を対象とした事例に注目して歴史的検討を行う。とくに「子ども」、すなわち乳児、幼児、 学齢期の児童を対象にした日本国内の医学研究を扱う。1950年代から1960年代の日本における具体的な事例としてすでに報告されているものに、国立予防衛生研究所および東京第一病院（旧東京第一陸軍病院）付属の保育所における乳児大腸菌実験、東北大学医学部付属病院のクル病幼児実験、国立公衆衛生院による小学校生徒に対する栄養制限実験、慶應義塾大学医学部付属病院の小・中学生に対する人工心肺による手術が挙げられる。これらの事例はいずれも、国立の研究機関やかつての陸軍病院、市の教育委員会や市立病院、学校長などが関与している。令和２年度は、前年度に実施した文献調査をもとに、戦後日本の児童福祉の成立期における医学研究の倫理的問題に関する考察を引き続きすすめた。親による保護あるいは公的機関による保護が機能しない状況で、実験対象の子どもたちが社会的弱者という集団として出現するプロセスについて、実証的に記述するための言説分析等を行なった。令和２年度は、育児休業等を一年間取得したため調査活動を実施していないが、今後の計画では国立国会図書館や各種文書館等にてより稀少な資料の収集にあたり文献調査をすすめ、言説分析および考察で得られた結果をあわせて研究成果として発表していく予定である。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

令和２年度は、前年度に実施した文献調査に基づいて、戦後日本の医学研究のうち乳児に対する新たな３事例を考察に加えた。すなわち、1960年代の大学医学部・乳児院が共同で実施した離乳食栄養実験と大学医学部で行われた新生児の侵襲的痙攣研究、そして1990年代に乳児院で行われたワクチン抗体検査である。これらと1950年代から60年代の乳児人工栄養実験や児童栄養制限実験と合わせて検討することで、戦後の小児科学と医薬品食品関連企業の関係に関する考察を試みた。また、名古屋市における複数事例の存在、小児科学における新生児および「未熟児」の扱いに注目し、戦後の医療福祉体制の構造批判をすすめている。
しかし、令和２年度は産前産後の休暇および育児休業を一年間取得しため、予定していた調査活動を実施できなかった。今後の研究期間において実施予定であり、当該旅費等が次年度の使用額として生じている。

今後の研究の推進方策

令和3年度は、国立国会図書館や各種文書館等にてより稀少な文献資料の収集と分析を行い、最終年度における成果発表に向けてすでに収集した文献資料とあわせて検討、考察する準備をすすめる。

次年度使用額が生じた理由

令和２年度は、産前産後の休暇および育児休業を一年間取得したため、当初予定していた調査活動を実施しなかった。今後の研究期間において実施予定であり、当該旅費等が次年度の使用額として生じている。