研究課題/領域番号 |
19K12939
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保田 さゆり 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任助教 (60835891)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物倫理 / 共感 / ペット / 動物の福利 / 動物関連法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ペット動物の存在を動物倫理の中心に据えることで、ペットにたいする「共感」を他の動物にたいする倫理的配慮の範型として位置づけることは可能かを検討することである。それにより、ペットにたいする共感の拡張を通した、動物倫理の基礎の確立を目指す。そのための課題として、(1)共感に注目する動物倫理の先行研究を整理し、論点と課題を明らかにすること、(2)対象との関係に応じて、倫理的配慮のあり方に違いを設ける「関係主義」的な動物倫理の議論と、共感概念との関係を検討すること、(3)共感的動物倫理が、家畜化された動物以外の動物にも適用可能であるかを検討し、動物倫理の枠組みとしての妥当性を検証すること、という3つの課題を設定している。 今年度は、特に(1)に中心的に取り組んだ。共感に注目する先行研究はまだ数少ないが、Gruen(2015)を中心に精読し、その主張を検討している。また、実践的な課題として、動物への配慮の社会的受容という課題に着目して研究を進め、論文の形で公表した。まず、動物の法的保護の強化に関して、「権利」概念ではなく「福利」概念に基づく議論が、社会的受容や実現可能性といった点で、より有望である可能性を検討した(論文「動物の権利と福祉――哲学的議論の役割と法的議論――」)。そして、動物をめぐるさまざまな日常的理解を再検討することで、倫理的配慮の基礎として適切な動物理解がどのようなものかを指摘した(論文「動物の倫理的扱いと動物理解」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(1)の研究成果として、共感概念に基づく動物倫理の立場について、先行研究を検討してきた。そうした先行研究は数が少なく、共感概念を基礎とするアプローチの意義や課題については、今後も継続的に研究を進める必要があると考えられるが、特に実践的課題として、動物の法的扱いの問題と、日常的な動物理解の問題について、課題の明確化と解決に向けた道筋の提示を行い、論文として公表している。 前者の問題については、共感に基づくアプローチでは限界があると思われる、法的問題にたいして、倫理学的議論として目指すべき道筋について論じている。後者は、動物への共感的理解を妨げるものにもなりうる、日常的な動物理解を、倫理学的観点から再検討するものである。 以上から、おおむね順調に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、(1)に継続的に取り組むとともに、課題(2)として、関係に応じて倫理的配慮のあり方に違いを設ける 「関係主義」について、これまでの研究をもとに、共感概念によって基礎づけられるか検討する。 ペットなどとの関係では「共感」がより基礎的な要素として描き出せると予想されるが、人間が環境を変えることで脆弱になった外来種にたいする責任など、共感とは関わらないようにも見える特別な責任の存在が指摘されうる。課題(2)において、この点の明確化をはかったうえで、課題(3)において、ペットと家畜動物に留まらない、多様な関係のあり方を広く検討する予定である。 また、今年度に取り組んだ、動物をめぐる法的扱いの問題について、さらに検討を進め、福利に基づくアプローチがもつ意義の明確化と、課題の解決を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた出張や研究会での発表が、延期により次年度に移ったため、次年度に使用する予定である。
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