研究課題/領域番号 |
19K12941
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
小城 拓理 愛知学院大学, 総合政策学部, 准教授 (10733040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 成員資格 / 市民権 / 政治的責務論 / 同意論 / 公正原理 / 正義の自然的義務 / 関係的責務論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は日本の現状を踏まえた移民の倫理学を構築することである。この目的を達成するために本年度に取り組んだのが国家の成員資格に付随する政治的責務の正当化、すなわちなぜ国家に服従しなければならないのかという問題である。この問題への解答は様々であるが、本年度はハートによって提唱され、ロールズを経てクロスコにいたる公正原理に焦点を絞った。公正原理による政治的責務の正当化とは、端的に言えばフリーライダーになってはならないという主張である。つまり、国家という協同体から利益を得ている者は、それへの服従義務から逃れることは他者を不当に利用することになるので許されないというわけである。これを移民の倫理学に応用すると以下のようになるだろう。福祉国家の国民も国籍の無い移民も国家から利益を公正に享受するならば、国籍の有無に関係なく、全員が国家への服従義務を平等に負うことが正当化できるはずである。つまり、公正原理によって国家の安定性が確保できることが見込まれる。しかし、公正原理を検討すると様々な問題があることが判明した。第一に協同体に属する全員に共通の利益とは何かがそもそも論争的であることである。第二にたとえ全員に共通の利益なるものがあったとしても、それにより正当化される国家はせいぜいのところノージック的な最小国家でしかなく、公正原理を主張する論者らが目指す福祉国家の正当化には不十分であることである。第三に国家の成員に利益をもたらすのは自国だけとは限らないので、国家とその成員との特別な関係が説明できないことである。以上のことから、公正原理を移民の倫理学に援用するためには、何らかの補完が必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の終盤のコロナウィルスの影響でいくつかの学会出席がキャンセルになったことは痛手であるが、文献収集とその読解は進んでいるため、本研究は順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
日本にふさわしい移民の倫理学を構築するため今後も政治的責務論の研究を進める。この研究は移民社会における国家の安定性を確保する上で極めて重要である。これからは公正原理とは別の主張である正義の自然的義務論と関係的責務論を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末のコロナウィルスの流行のために学会出張がいくつかキャンセルしたことが理由である。今年度は今回のような事態に対応できるよう差額が生じそうなときは事前に物品を購入するなどして備えることにする。
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