研究課題/領域番号 |
19K12942
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
佐藤 亮司 東京都立大学, 大学教育センター, 准教授 (90815466)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 予測誤差最小化理論 / 知覚 / 認知 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウィルス禍により、研究発表の機会の喪失などに研究計画の遂行が大いに影響を受けた。そのような状況下ではあったが、いくつかの重要な成果を挙げることができた。本研究課題『予測誤差最小化理論における知覚と認知の関係の探求』においては、計算神経科学上の理論である予測誤差最小化理論への理解及び哲学的含意の理解を深めることが研究遂行の鍵となっている。この予測誤差最小化理論を、なるべく平易な形で説明/解明し、哲学的含意を論じたJakob Hohwy著the Predictive Mindの邦訳を『予測する心』として、勁草書房から2月に出版することができた。同書は、同理論の哲学的含意を検討した単著としてはパイオニア的なものであり、翻訳作業を通じ、同理論に関する理解を深めることができた。また監訳を務めた研究代表者は、訳だけではなくより最新の知見を盛り込んだ解説も手がけ、予測誤差最小化理論とそれを包摂するより大きな枠組みである自由エネルギー最小化原理の関係について解説を行なった。また、2020年度は世界的に陰謀論が問題になった年でもあった。そこで、陰謀論についての研究についても力を入れて行なった。現在は陰謀論に関する近年の心理学的、哲学的研究の検討のみにとどまっているが、その結果陰謀論を信じる人と病的な妄想を信じる人との間には興味深い相違点と共通点があることが見出されつつある。この点についての検討結果の学会発表を2021年度中に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、三つのサブプロジェクトに分かれており、それぞれについて現状を述べる。 サブプロジェクト1. 予測誤差最小化理論において哲学的な意味での「知覚」や「思考」 がどのように位置付けられるかという問題である。「あそこの床で犬が寝ている」という概念的思考と「あそこの床で犬が寝ている」という知覚は素朴にはカテゴリーの異なるもののように思われるが、この理論を推進する研究者の中には、実はそれらは連続的な存在であるということを主張するものが少なくない(Corlett, Howhyなど)。この主張はこれまではっきりとした根拠を持つものではなかったが、階層的な予測誤差処理という、これまでこの理論において中心的に用いられていたメカニズムでは概念的な思考の特徴を説明するのに不十分であるという方向性も示唆されており(Williams forthcoming)、理論の拡張の方向性を現在模索している。 サブプロジェクト2. はサブプロジェクト1.の成果に基づいて、知覚の認識論的役割の再評価が行われる予定であるが、まだこのサブプロジェクトに本格的に取り組む段階に至っていない。 サブプロジェクト3.は前述の陰謀論のような、認知と知覚の相互作用が関わる現代社会において重要性を増している問題に応用する問題である。現在、病的な妄想と陰謀論の比較検討を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は予測誤差最小化理論における概念的思考についての研究と陰謀論と病的な妄想の比較についての研究を中心に進めていく。とりわけ、病的な妄想に関わる研究は、知覚のみに以上があるとする理論、知覚と概念的思考を含む意思決定のメカニズムの両方に異常があるとする理論との間で論争状態にあるため、本研究課題に直接の関連を持つ。研究成果はZoomを用いた研究発表などを通じて積極的に発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス禍により、海外国内をとわず出張が行えなかったこと。状況の正常化によっていつでも出張が行えるよう、研究費の使用を差し控えた。
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