研究実績の概要 |
昨年度は、本研究の核である、知覚と高次認知機能の関連性に焦点を当てて研究を進めた。特に、「期待自由エネルギー」の観点から、計画や意思決定といった未来志向の認知活動がどのように理解されるかを探求し、その哲学的、実践的含意について研究を行った。
重要な成果として、陰謀論の広まりに関する論文が改訂、再投稿を経て、査読付きジャーナルに無事掲載された(Sato, R. (2023). The rabbit-hole of conspiracy theories: An analysis from the perspective of the free energy principle. Philosophical Psychology, 36(6), 1160-1181.)。この論文は、情報の伝播と受容のメカニズムが、情動的で社会的な要素を本質的に含むことを指摘する点で注目に値すると考えている。また、New Zealand Association of Philosophyの年次集会において、” Framing the frame problem in Active Inference”の演題にて発表を行った。認知科学や心の哲学における古典的問題であるフレーム問題に対して、自由エネルギー原理や階層的な予測誤差最小化問題の観点から解決に取り組んだ。昨年度はまた、単著の執筆にも取り組んでいたが、年度内の完成には至らなかった。しかし、準備過程で得た洞察は、今後の研究の発展に寄与することとなる。この本では、予測誤差最小化理論に基づく知覚と認知の一連の研究成果を総合的に紹介し、さらなる学際的な研究の発展に貢献することが期待される。
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