研究課題/領域番号 |
19K12944
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 俊介 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (80755819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 徳倫理学 / 組織の徳 / 不祥事 / スワントン / 信頼性 |
研究実績の概要 |
今年度は企業不祥事に関する組織の徳に基づいた評価枠組みの提案として、組織の徳に基づいた評価枠組みの構築と、その妥当性の検討作業を行った。ただし当初の計画では「組織的徳」と呼んでいたが、わかりやすさから「組織の徳」と呼ぶことにした。 具体的には、従来の徳倫理学をロザリンド・ハーストハウス、マイケル・スロート、クリスティーン・スワントンの三つの代表的な理論を中心に概観し、その限界として(1)ビジネスの多くの場面で悪徳しか育まれないとするアラスデア・マッキンタイアの指摘と(2)組織構造や組織文化によって引き起こされた不祥事を評価できないという点を示した。 次いで、その限界を克服する方策として組織の徳に注目し、先行研究を検討した。とりわけ、J・D・ビショップが提案する組織の徳が満たすべき三条件を検討し、その妥当性を確認した。そのうえで、組織の徳の具体例として信頼性(trustworthiness)を挙げ、組織の徳倫理学を提案した。この枠組みが実際に、上に挙げた従来の徳倫理学の限界を克服するものであることを確認した。 最後に、組織の徳倫理学の枠組みから、かんぽ生命保険の不適正募集問題に対して倫理的評価を試みた。従来の徳倫理学の枠組みでは、日本郵政グループの保険勧誘はそれに関与した2000人以上の局員一人ひとりが悪徳を備えていたことによって評価されるだろう。だが、調査報告書が示しているのは、達成困難な営業目標を課し不適正募集を抑止する態勢を整えなかった組織の側にも問題があったという事実である。この点を説明し、提案した枠組みのもと倫理的な観点から評価した。 以上の成果は、日本経営倫理学会誌に「組織の徳倫理学 --- 組織不祥事を評価する枠組みの提案 ---」として投稿し、査読を経て掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に沿って、企業不祥事に関する組織的徳(組織の徳)に基づいた評価枠組みを提案することができた。
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今後の研究の推進方策 |
組織の徳の一例として信頼性を挙げることができたが、それ以外にどのような組織の徳があるかについては定かではない。現在、テキストマイニングを使って、日本の企業の経営理念から、組織の徳がどのようなものであるかを探っている。研究成果は日本経営倫理学会第30回研究発表大会にて「経営理念に表れる日本企業の徳──テキストマイニングを用いて──」として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で国内外の研究会に参加できず、当初計画が遅延・変更したため
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