研究課題/領域番号 |
19K12945
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾崎 順一郎 東北大学, 文学研究科, 助教 (40757085)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 清代 / 朱子学 / 四書学 / 出版 / 科挙 |
研究実績の概要 |
本年度は、清代初期を代表する朱子学者の一人である陸隴其の四書学を中心に調査・研究を行い、その成果の一部については学会発表や学術誌において報告した。具体的には、(1)陸隴其の文集や四書注解書には、それぞれ複数のテキストが存在しており、特定の版にのみ掲載された文章もあるため、各地の図書館で関連する資料の収集を行った。また、あわせて明清時代に出版された四書注解書のリスト作成、資料収集を行った。(2)東北中国学会(秋田大学)では「清代初期における『四書大全』の受容について――陸隴其の取り組みを中心に」と題する研究報告を行い、また東亜礼学与経学国際研討会(復旦大学)では「陸隴其的《三魚堂四書大全》編纂与四書学」と題する研究報告を行った。これらは、陸隴其の四書関連の著作や『日記』などの資料を手掛かりに、彼が置かれた読書環境がどのようなものであったかを検討するとともに、彼がそれまでの『四書大全』をめぐる議論をどのように受容し、自身の見解を示したのかを報告した。(3)『立命館文学』第664号には「陸隴其の学問における朱子の思想遍歴について」と題する論文を発表した。この論文の前半では、陸隴其が明・陳建『学蔀通弁』を盛んに称賛しつつも、一方で『読朱随筆』の中では朱子の思想遍歴について『学蔀通弁』とは異なる見解を示していたことを確認し、後半では陸隴其が自身の考える朱子の思想遍歴を根拠に劉宗周と秦雲爽の朱子学理解に対して反論を試み、当時の朱子学に対する誤解を是正しようとしていたことを明らかにした。なお、本年度の基金は、上記の調査・研究・報告を行うために、図書購入費・文献複写費・旅費などに活用した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、朱子学が再興したと言われる清代前期という時代において、どのような朱子学関連の書籍が編纂・出版されたかを把握するとともに、こうした書籍群が担っていた思想史的社会史的な意義を探って行くことで、この時期における朱子学の在り方を掘り起こしていくことを目指している。そこで、本年度は研究の基礎作業として、国内外で刊行されている図書目録や全国漢籍データベースなどを活用して、清代前期に出版された朱子学関連書のリスト作成から着手した。ただし、実際に漢籍を紐解いてみなければ書籍の性格が分からないものあるため、リストの作成と並行して、清代初期を代表する朱子学者である陸隴其の四書学を切り口として、四書に関する漢籍の閲覧調査を行うこととした。陸隴其に着目したのは、彼自身が四書の注解書を編纂する際に、明末から清初に提示された四書に関する諸説を意識的に収集し、また朱子学関係の書籍の出版にも自覚的に取り組んでいたことから、目録からでは窺い知ることのできない知見をも得られると考えられたからである。なお、陸隴其に関する調査・研究自体は、本研究の中盤から手掛ける予定であった四書関連の調査・研究に該当するものであり、結果的にはその一部を前倒しで取り組んだことになる。ただ、その一方で、当初は一年目に着手する予定であった康熙帝の命令を受けて李光地らが編纂に従事した『御纂朱子全書』『御纂性理精義』の調査・検討に遅れが生じてしまうことになった。李光地と陸隴其はともに康熙九年の会試で進士となった者同士でもあることから、陸隴其に関する研究は、李光地の取り組みを見ていく上での基礎的な作業にもなったと言えそうである。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度は、朱子学関連書のリスト作成と並行して陸隴其の四書学に関する検討に踏み込むこととなったが、今後は基本的には当初の計画に沿うかたちで調査・研究を進めていきたい。(1)朱子学関連書籍のリスト作成。これまでの目録類の調査・整理に加えて、陸隴其を始めとする当時の学者たちの発言などに見える文献の出版・流通に関する情報の整理収集も並行して行っていく。(2)李光地らが編纂に携わった『御纂朱子全書』『御纂性理精義』の調査・検討。まずは、李光地の履歴や交遊関係などの事跡調査、編著の文献学的調査など中心に基礎的な情報整理から着手する。(3)陸隴其の四書学に関する調査・検討の整理。陸隴其に関する考察の成果は、その一部を既に論文として発表しているが、肝心の四書学に関する考察内容を発表するまでには至っていないため、速やかにその成果を論文としてまとめていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必要な物品・旅費などについては予算額内でしようすることができた。むりやり予算消化を行うよりは、次年度に使用するほうが有効に利用できると考えたため。
|