研究課題/領域番号 |
19K12948
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
富田 真理子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (20837273)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インド仏教 / 初期仏典 / パーリ聖典 / 涅槃 / スッタニパータ / 註釈 / パラマッタ・ジョーティカ― / 仏塔 |
研究実績の概要 |
令和3年度は, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解を引き続き進め, それらの註釈を含む検討がおおむね完了した. その結果, 韻文に比べ散文経典では, 大般涅槃経(DN II pp. 72 - 168 [第16経])をはじめとして明らかに命終を表す涅槃の語彙が多く現れるようになること, さらに, 修行者や在家信者が, 生前に涅槃を得ず亡くなる場合, 来世, 様々な行先があると説かれるようになり, 涅槃の教義が多様化することが確認できた. コロナ禍で不定期参加となったが, 古代インドの仏典・美術研究会(京都)に可能な限り参加し, 2021年9月24日と10月9日には「無余依涅槃と有余依涅槃」をテーマとして文献考察を中心とする研究発表を行った. さらに, 所属する漢訳仏典研究会で共著論文「漢文読解『破僧事』巻第一」の執筆を進め, 『対法雑誌』へ投稿した. 加えて, 令和3年度も引き続き, 仏教文献・仏教逸話とインド美術史を有機的に融合させる研究手法について研鑽を積むべく, オンラインで開催された学会やシンポジウムに精力的に参加した. 具体的には, 第一回RINDAS国際シンポジウム [2021年7月31日], 日本インド学仏教学会学術大会 [2021年9月4 - 5日], パーリ学仏教文化学会 [2021年10月30日], 京都大学大学院文学研究科主催シンポジウム「ユーラシアにおける宗教遺産研究の可能性―伝播と融合―」[2021年12月4日], 東京大学主催ハーバード大学フランシス・クルーニー教授特別講演 “Interreligious Learning: An Art, not Just a Science” (「間宗教的学び: 科学のみならずアートとして」) [2022年3月4日]他である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初期仏典における涅槃に関連する語彙の全用例を網羅的に分析し, かつ学際的アプローチの導入により, インド初期仏教における涅槃の概念に関する新たな知見を提供し, 涅槃の全容解明に資することを目指す本研究は, 3年めとなる2021年4月~2022年3月の期間中も, 前年度に引き続き新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴い, 予定していた成果発表の機会および現地での継続調査の機会が失われた. 成果発表は, 2022年1月に口頭発表を予定していた国際サンスクリット学会(開催地: オーストラリア キャンベラ オーストラリア国立大学にて)が, さらに1年後へ延期となった. 継続調査に関しては, 2022年2月下旬にインド サーンチー仏塔を中心とする現地調査を予定していたが, 実施することができなかった. そのような状況の中, コロナ禍で対面での勉強会は中止しているが, 所属している漢訳仏典研究会メンバー(加治洋一・杉本瑞帆・田中裕成・富田真理子・中西麻一子・横山剛)による共著論文「漢文読解『破僧事』巻第一」の執筆を進め, 『対法雑誌』へ投稿することができた(査読済み, 出版待ち). パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解に関しては, 経典およびそれらの註釈の解釈に関する作業が完了した. その中で, 二種涅槃界に関しては漢文経典についても検討を始め, パーリ文献では修行完成者である解脱者の生前の状態を表す「有余依涅槃」という術語は, 漢文においてはまだ涅槃を得ていない修行半ばの「不還」の状態であるとの異なる解釈をしていることが確認された. 前述の通り, 海外での研究発表および現地調査に関して, さらに1年後ろ倒しを余儀なくされたため, 科研期間の延長申請をした上で, 研究の進捗は「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は, 初期仏典中の涅槃に関する語彙を網羅して, 全用例およびそれらの註釈の解釈に関する文献学的考察を完了させ, 研究成果を論文にまとめる予定である. その成果の一部に関して, 「初期仏教における無余依涅槃と有余依涅槃」と題して別論として執筆し, 発表・公開の機会を模索する. さらなる成果発表・公開および現地調査に関しては, 延期となっている未消化予定を実施させる計画である. 文献研究の成果に関しては, 2023年1月に再々延期された国際サンスクリット学会(開催地: オーストラリア国立大学)にて口頭発表を行う予定である(Philological Study on Nibbana-related Words in Suttanipata and Its Commentary Paramatthajotika). 学際的アプローチについては, 涅槃に関する仏教美術のモチーフと時代背景, そして文献描写との関連性を探る計画であるが, 引き続き古代インドの仏典・美術研究会(開催地:京都)を中心として, さらなる研鑽を積み, 得られた知見を本研究に生かしていきたい. そして2023年2月に, インド カナガナハッリ大塔(紀元前1世紀頃, 1994年から発掘調査開始. 現在も発掘・復元中)の図像を長年調査・研究している中西麻一子 大谷大学任期制助教を研究協力者として, 2年延期となっているインド調査に同行し, 初期仏教の影響が残り, 無仏像時代の仏塔であるサーンチー(紀元前3世紀頃)を中心に現地調査を行う予定である. 但し, 上記の機会が再度失われる状況となれば, これまでの研究成果をまとめ, 報告書として出版・公開する形をとりたいと考えている. 引き続き状況に応じて柔軟に, そしてでき得る最大の成果を上げるべく当該研究を遂行し, 本年度末までに完了させる所存である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外での学会発表および現地調査に赴くことができなかったため次年度使用額が生じることとなった. 海外での学会発表に関しては,オーストラリア政府が渡航規制を撤廃したため, 2023年1月に国立オーストラリア大学での学会開催が可能となったと, 4月に国際サンスクリット学会事務局から連絡が入っており, 執行できる見込みである. インド現地調査に関しても, 状況が現在より改善すれば実施可能になろうかと思われる. もし海外のコロナ感染状況が改善せず, あるいは悪化し, 使用計画通りに進まなくなる場合には, これまでの研究成果をまとめ出版・公開をすることに切り替え, 次年度使用額を全て執行する予定である.
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