研究実績の概要 |
令和4年度は, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解, それらの註釈を含む調査がおおむね完了したことを受け, その成果の一部を論文にまとめた. 本論「パーリ語初期仏教経典における二種涅槃界への展開」では, その初期仏典の終盤に成立したとされ, 唯一, 有余依涅槃界および無余依涅槃界という二種涅槃界が説かれる『イティブッタカ』第44経(pp. 38-39)を取り上げ, そこまでの展開について考察した. さらに註釈的聖典『ニッデーサ』も検討に加え, 二種涅槃界の教理がそこでは説かれていないことを確認し, 従って, その教理が広く確立するのは, 註釈文献の成立まで下ることが明らかとなり, 初期仏典中に説かれた1経は特異な経であることが浮き彫りとなった. 本論は, 京都光華女子大学 真宗文化研究所における中間発表(2022年10月7日オンライン開催)を経て, 真宗文化研究所年報 『真宗文化』第32号に投稿した(査読済み, 出版校正段階). 古代インドの仏典・美術研究会(京都)において, 2022年10月1日に「無余依涅槃と有余依涅槃」をテーマとして漢文経典を含む文献考察を中心とする研究発表を行った. さらに, 所属する漢訳仏典研究会で共著論文「漢文読解『破僧事』巻第二」の執筆・内容確認を進め, 『対法雑誌』第4号へ投稿した(査読済み, 出版校正待ち). さらに, 延期となっていた国際サンスクリット学会が2023年1月にオンライン開催され, ビデオ公開で口頭発表を行った. 本発表を含む仏教学セッションが12日にオンライン開催され, Chairを務めたDr. Mark Allon(オーストラリア シドニー大学准教授)と共に, 他の発表者らと意見交換を行った. 加えて, 2022年12月にインドに赴き, サーンチー仏塔(紀元前3世紀頃)を中心に現地調査を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初期仏典における涅槃に関連する語彙の全用例を網羅的に分析し, かつ学際的アプローチの導入により, インド初期仏教における涅槃の概念に関する新たな知見を提供することを目指す本研究は, 4年めとなる本年度中, まず, 延期となっていた成果発表および現地での継続調査をやっと実行することができた. 成果発表としては, 2023年1月9~13日にオンラインで開催された国際サンスクリット学会において口頭発表を行った(Philological Study on Nibbana-related Words in the Suttanipata and Its Commentary Paramatthajotika). 継続調査に関しては, 2022年12月下旬に, 中西麻一子 大谷大学任期制助教および杉本瑞帆 龍谷大学非常勤講師と共に, 初期仏教の影響が残り, 無仏像時代の仏塔であるサーンチー(紀元前3世紀頃)を中心に現地調査を行った. さらに, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解に関しては, 経典およびそれらの註釈の解釈に関する作業がおおむね完了したことを受け, その成果の一部を論文にまとめ, 真宗文化研究所年報 『真宗文化』第32号に投稿した(現在出版校正段階). 加えて, 所属している漢訳仏典研究会メンバー(加治洋一・杉本瑞帆・田中裕成・富田真理子・中西麻一子・横山剛)による共著論文「漢文読解『破僧事』巻第二」の執筆および内容確認を進め, 『対法雑誌』第4号へ投稿することができた(査読済み, 出版校正待ち). 博士論文段階での成果に加えて, その後の調査結果を踏まえた研究報告書を完成させる予定であったが, 研究作業が立て込んだため, 予定通りに進めることができなかった. それ故, さらに1年間科研期間の延長申請をした上で, 研究の進捗は「遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初期仏典中の涅槃に関する語彙を網羅して, 全用例およびそれらの註釈の解釈に関する文献学的考察を完了させ, 研究成果を報告書にまとめるべく現在作業中である. その研究報告書を令和5年度中に完了させ, 出版・公開する予定である. さらなる成果発表・公開に関しては, 2023年1月に国際サンスクリット学会にて口頭発表(Philological Study on Nibbana-related Words in the Suttanipata and Its Commentary Paramatthajotika)を行った内容を基にした論文の出版を行う予定である. 本論は, 今年度出版予定の 『待兼山論叢』第57号哲学篇に掲載予定である. 学際的アプローチについては, 涅槃に関する仏教美術のモチーフと時代背景, そして文献描写との関連性をこれまで探ってきた. 今年度は, 古代インドの仏典・美術研究会(開催地:京都)を中心としてこれまで得られた知見, および2度のインド現地調査結果に関してとりまとめ, 科研期間中の研究成果の一部として報告する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
博士論文段階での成果に加えて, その後の調査結果を踏まえた研究報告書を完成させる予定であったが, 研究作業が立て込んだため, 予定通りに進めることができなかった. それ故, さらに1年間科研期間の延長申請を申し込み、本年度中に研究報告書を完成させ、出版・公開する計画である。
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