研究実績の概要 |
初期仏典における涅槃の諸語彙を網羅的に用例分析し, かつ学際的アプローチの導入により, インド初期仏教における涅槃の概念に関して, 新たな知見を提供し, 涅槃の全容解明に資することを目指す本研究の最終年度の実績について以下概要報告を行う. 令和5年度は, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解, それらの註釈を含む調査が完了したことを受け, その成果の一部をまとめた論文が複数出版された. まず, 「パーリ語初期仏教経典における二種涅槃界への展開」が, 京都光華女子大学 真宗文化研究所年報 『真宗文化』第32号に掲載された. 本論では, 初期仏典中, 唯一, 二種涅槃界が説かれる『イティブッタカ』第44経を取り上げ, そこまでの展開について考察した. さらに註釈的聖典『ニッデーサ』も検討に加え, 本教理が広く確立するのは, 註釈文献の成立まで下ることが明らかとなり, 『イティブッタカ』第44経は特異な経であることが浮き彫りとなった. さらに, 2023年1月にオンライン開催された国際サンスクリット学会での口頭発表内容をまとめた英語論文が, 『待兼山論叢』第57号哲学篇に掲載された. また, 所属している漢訳仏典研究会メンバー(加治洋一・杉本瑞帆・田中裕成・富田真理子・中西麻一子・横山剛)による共著論文「漢文読解『破僧事』巻第二」が 『対法雑誌』第4号に掲載された. 加えて, 科研期間中の研究成果を盛り込んだ著書「初期仏典における涅槃について―『スッタニパータ』を基本資料として―」を, 山喜房佛書林より2024年1月に出版した.
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