研究課題/領域番号 |
19K12949
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
大塚 恵俊 大正大学, 仏教学部, 非常勤講師 (20774582)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インド密教 / 儀礼実践 / アビシェーカ / 灌頂 / インド初期密教文献 |
研究実績の概要 |
本研究は、インド密教の入門儀礼として知られるアビシェーカ(灌頂)儀礼の最初期の形態と機能について、文献学的手法により明らかにすることを目的としている。 研究期間初年度である令和元年度は、インド密教最初期のアビシェーカ儀礼を説く、初期密教文献『宝楼閣経』第3章を中心に扱い、その基礎研究を進めた。本経には、断片的ではあるものの、貴重なサンスクリット語原典の一次資料が現存し、また精読に必要不可欠であるチベット語訳、漢訳の諸資料が現存する。これらの資料を対照させることによって、より精緻な文献学的研究が可能となるため、入手可能な文献資料を収集し、当該箇所の校訂テキストならびに訳注の作成作業に従事した。 具体的には、公刊されているサンスクリット語写本の資料(Gilgit Buddhist Manuscripts, Revised and Enlarged Compact Facsimile Edition: Arch. No. 22)を一次資料として使用し、対照するチベット語訳文献には、デルゲ版(No.506)や北京版(No.138)を始めとするチベット大蔵経の主要な版、および敦煌出土のチベット語訳写本(敦煌市博物館所蔵)、漢訳文献には、失訳『牟梨曼陀羅呪経』(No.1007)、菩提流志訳『宝楼閣経』(No.1006)、および不空訳『宝楼閣経』(No.1005)を使用し、本経の基礎研究を進めた。特に、敦煌出土チベット語訳写本は、これまでその詳細が知られていなかった資料であり、このチベット語訳資料を精査すること自体も有益な研究成果となるため、当文献資料の研究も並行して進めた。 以上の研究成果については、年度末の2月に大正大学綜合仏教研究所において開催した研究会において報告し、主に大正大学所属のインド密教を専門とする研究者より貴重な意見を賜った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行する上で主要な資料を事前に収集できていたこともあり、主な研究対象である『宝楼閣経』第3章の校訂テキストならびに訳注の作成作業を順調に進めることができている。年度末に開催した研究会では、作成中の校訂テキストと訳註に関する報告を行い、問題点の指摘された箇所について修正作業を進めている。 また、当初の研究計画から若干遅れてしまったものの、11月に敦煌市博物館を訪れ、本研究において使用する敦煌出土チベット語訳写本を調査することができた。当写本は、全体にわたってチベット文字の字体が整っておらず、判読困難な箇所が少なくないが、概ね基礎研究を終えることができた。これにより、当該チベット語訳写本が、本経の第1章から第4章の途中までに対応していることがわかり、『宝楼閣経』所説のアビシェーカ儀礼を研究する上で、重要な資料であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度も引き続き、『宝楼閣経』を中心とした、初期のアビシェーカ儀礼を説く密教文献の校訂テキストならびに訳注の作成作業を進めていく。これらの作業と並行して、アビシェーカ儀礼を扱う儀則(儀礼実践のための手引き書)特有の専門用語や資具の名称を精査し、それにもとづくグロッサリーを作成する。そして、一連の研究成果を整理し、初期インド密教文献を通じた視点から、最初期のアビシェーカの形態と機能について考察を深めていく。 以上の作業を通じて得られた研究成果は、令和2年度に開催される関係学会において報告する予定であり、併せて『宝楼閣経』第3章の校訂テキストならびに訳注を学術雑誌において報告する計画である。 また、本年度も、年度末に研究会を2回予定している。そこでは、令和2年度の研究成果の全体像を報告すると共に、研究を進めていく過程で生じた問題点について解決を図る機会を設ける。また、本研究に対する外部評価を依頼し、次年度の研究の方向性について、随時修正を加えていくこととする。なお、新型コロナウィルスの影響により、対面での研究会開催が困難な場合は、随時、オンラインで研究報告や意見交換を行うことにする。その際には、必要な機器を適宜購入し、様ざまな手段を通じて研究の進展に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間初年度である令和元年度において、当初の計画になかった国外出張の旅費を計上せざるをえなくなり、「前倒し支払請求」を申請した経緯がある。そのため、令和元年度の研究費使用計画を修正し、急を要さない図書の購入を見送った結果、次年度使用額が生じてしまった。 ただし、その額は少額であり、今後の研究費使用計画に大幅な変更はない。この次年度使用額を含めた当該年度の助成金は、購入を見送った図書の購入費や、オンラインでの研究会開催のための機器の購入費や通信費として使用する計画である。
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