研究実績の概要 |
研究初年度である2019年度は、インド後期密教における「五護陀羅尼明妃」と他の女神信仰の特色と比較考察することで、五護陀羅尼経典が女尊として神格化された際の信仰上の機能および図像的特色を明らかにした。比較対象として、五護陀羅尼明妃と同時期にインドで普及した女尊であり、かつ、陀羅尼としても知られているマーリーチー(摩利支天)を主に取り上げた。また、ターラー女尊の脇侍としてのマハーマーユーリー(孔雀明妃。神格化された五護陀羅尼明妃の一尊)とマーリーチーの成就法も考察対象に加えた。研究方法として、インド後期密教経典に属する『成就法の花環』(SM Nos. 89, 91, 104, 116, 132~147, 197, 201, 206)と『完成せるヨーガの環』(NPY Nos.17, 18)等を用いて翻訳研究を中心に進めた。マハーマーユーリーとマーリーチーは初期の図像的特色を持つターラーの成就法中に登場しており、仏教女尊の中でも早い段階で成立したと考えられること、また、両者は天体・天候と関係することから天災による諸問題を解決する機能が期待されていた可能性等について考察した。また、SM No.134の和訳を発表した。使用テキストはBhattacharyaのSMテキスト校訂本(1968年)を底本とし、サンスクリット写本に東京大学所蔵写本No.451、京都大学所蔵写本No.119、チベット語訳にデルゲ版 No.3524等を参考にした。本研究にあたり京都・高野山に出張し、京都大学所蔵梵文写本マイクロフィルム等の資料および現地調査をさせていただいた。他に現地資料調査や研究成果発表、シンポジウムの聴講等、研究上の知見を得るため出張した。以上の研究成果は、日本印度学仏教学会学術大会、東洋大学東洋学研究所の研究発表例会で口頭発表を行い、『印度學佛教學研究』『東洋学研究』において論文発表を行った。
|