研究課題/領域番号 |
19K12950
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
園田 沙弥佳 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (20834857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 五護陀羅尼 / 『大寒林陀羅尼』 / チベット大蔵経 / 初期密教経典 / 陀羅尼 / ラーフラ / ヒンドゥー教 |
研究実績の概要 |
2020年度は五護陀羅尼関連注釈書のうち『明呪大妃大寒林経十萬註』の翻訳を中心に研究を進め、その成果の一部として、チベット大蔵経における五護陀羅尼の構成について成果発表を行った。五護陀羅尼経典のうち『大寒林陀羅尼』と見なされる経典は、チベット語訳にのみ存在するものを含めて現在2種類確認されている。前者はサンスクリット系統、後者はチベット語訳系統の五護陀羅尼に含まれることから、『大寒林陀羅尼』は五護陀羅尼の系統を区別するために重要な経典の一つであるといえる。両経典はチベット大蔵経において別個に収録されているが、本経典の注釈書である『明呪大妃大寒林経十萬註』には上記2種の『大寒林陀羅尼』の注釈が含まれている。7月に開催された日本印度学仏教学会第71回学術大会では、『明呪大妃大寒林経十萬註』の内容構成を明らかにした上で、サンスクリット・テキスト、漢訳、チベット語訳の五護陀羅尼の構成を比較し、新資料の可能性について言及した。12月に開催された東洋大学東洋学研究所研究発表例会では、サンスクリット系統の『大寒林陀羅尼』と『明呪大妃大寒林経十萬註』が注釈対象としている経典引用部分(前半部分)の比較を行い、『大寒林陀羅尼』が成立する際のヒンドゥー教聖典による影響等について口頭発表を行った。本年度の論文発表として、『印度學佛教學研究』(欧文論文)を投稿した。また、『東洋学研究』では本注釈書が注釈対象とする経典の引用部分を抜粋し、サンスクリット系統の『大寒林陀羅尼』部分の経典の再構成を試みた。再構成テキストは北京版・デルゲ版と比較した上で、資料編として発表した。その他オープンアクセス化への対応として、科研費により設置した自身のホームページに論文PDFや発表資料を掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に『明呪大妃大寒林経十萬註』の内容構成の把握を通じて、注釈書における2種の『大寒林陀羅尼』の位置づけと新資料の可能性、ヒンドゥー教の聖典との関連性、五護陀羅尼における本経典の位置づけを提示した。当初予定していた国内・海外における現地調査は新型コロナウイルスの影響により変更せざるを得なかったが、オンラインで開催された研究発表会や講演会等に出席することで先生方のご研究を聴講する機会を得て、知見を深めることが出来た。上記の通り本年度は研究計画の様々な調整を余儀なくされたが、新型コロナウイルスの影響を受ける前に行っていた現地調査の資料の利用や、各機関の調査・研究支援オンラインサービス等による資料の複写・閲覧を活用することで、本年度の研究を概ね予定通り進めることが出来た。研究成果は7月に開催された日本印度学仏教学会第71回学術大会、および、12月に開催された東洋大学東洋学研究所の研究発表例会(一般公開)で口頭発表を行った。また、『印度學佛教學研究』『東洋学研究』において論文を発表し、そのうち1件は当初の予定通り欧文論文にて投稿することが出来た。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は本研究期間の最終年度に当たる。前年度までの成果を踏まえ、五護陀羅尼の一つ『大護明陀羅尼』の注釈書である『大秘密真言随持経十萬註』を取り上げる。本注釈書において注釈対象としている経典部分の抜粋・再構成を試み、『大護明陀羅尼』や『ヴァイシャーリー・プラヴェーシャ』等関連経典との比較考察を行うことで、初期密教経典と初期仏教、他宗教との関係性について考察したい。2021年の主な研究成果発表として、9月に日本印度学仏教学会第72回学術大会発表(大谷大学)、東洋大学東洋学研究所の研究発表例会(一般公開)を予定している。論文は『印度學佛教學研究』『東洋学研究』への投稿を希望している。2020年度はいずれもオンラインでの発表であったため、画面共有機能等を用いた資料の活用方法を工夫した。2021年度は現地開催での発表の他、オンライン開催の環境整備を行い、研究成果のよりわかりやすい表現方法の技術取得にも努めたい。また、12月以降は3年間にわたる本研究期間の集大成として、研究報告書の作成に着手する。本研究期間で得られた成果として、五護陀羅尼の構成および五護陀羅尼が明妃として神格化された展開についてまとめたい。
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