研究課題/領域番号 |
19K12951
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
西沢 史仁 立正大学, 法華経文化研究所, 研究員 (50646643)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チベット中観思想 / パツァプ / 二諦 / 離一多 / 離辺中観 / 不住中観 / 帰謬派 / 自立派 |
研究実績の概要 |
2021年度は,チベット中観帰謬派の創始者であるパツァプニマタク(ca. 1070-1140)の中観思想研究に従事した.パツァプについては,昨年度その予備的研究として彼の生涯と事績について纏めたが,今年度はそれを受けつつ,彼の『中論』の註釈『中論註疏・明灯論』第一章を主資料として,『明句論難語釈』及び『パツァプ口訣』を依用しつつ,パツァプの『中論』の章立てに関する解釈,中観派の分類に関する解釈とその思想的立場,空性及び空性を理解する知に関する十問答,二諦説及び離一多性の考察,二種の論証形式(タクセルとタクジョル),パツァプとゴク翻訳師の関係,『明灯論』の学的背景及び『明句論難語釈』への思想的変遷などを検討して,チベット中観思想の形成とその歴史的展開に関する現時点での理解を纏めた.その研究成果は,『チベット初期中観思想研究:パツァプ翻訳師ニマタクの中観思想』という題目で『法華文化研究』48に公表した. さらに,チベット中観思想における二諦説の設定の起源について,ツォンカパの『菩提道次第小論』やコラムパの『中観総義・了義解明』等の後代のゲルク派及びサキャ派の論書を手掛かりとして,そこに共通して採用されている六項目からなる二諦の科段設定の起源を一連のチベット初期中観論書に遡及する作業を試みた.その結果,(1)この六項目の科段を最初に設定したのは11-12世紀の初期サンプ系学者であったこと,(2)パツァプ及びその系統の学者達にはこの科段設定は受容されず,二諦説自体が主要な論題と見なされていなかったこと,(3)初期チベット人学者の間には,中観思想の主要主題をめぐって,①《二諦》を中核に据えたサンプ系学者と,②《縁起》を中核に据えたパツァプ系学者の二系統の学統が成立していたことが明らかになった.その研究成果は日本印度学仏教学会第72回学術大会で口頭発表し,同学会誌70-1に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り,サキャ派及びゲルク派の中観論書を資料としてその二諦説の研究に入った.具体的には,サキャ派の論書としては,ソナムツェモの『入菩薩行論註』,タクパギェルツェンの『タントラ現観』,サパンの『牟尼密意解明』,コラムパの『了義解明』等,ゲルク派の論書としては,ツォンカパの大小二つの道次第,ケードゥプジェの『福縁開眼』等の二諦説の箇所の読解と分析である.但し,改めて,パツァプの中観思想の重要性とその後代に対する影響力の大きさを確認したため,パツァプの原典資料の読解と分析にかなりの時間と労力を費やした.その結果として,初期サンプ系学者のうち,チャパの中観論書の分析に若干の遅延が生じている.但し,それ以外の研究の進捗は概ね順調であると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策等】 来年度は,当科研研究の最終年度に当たるため,これまでの研究成果を取り纏める方向に入る予定である.具体的には,若干の遅延が生じているチャパの中観思想の研究に重点を置きつつ,11-12世紀の初期チベット人学者の間に見られるサンプ系の学統とパツァプ系の学統という二系統の中観の学統が如何に後代のサキャ派やゲルク派に受容され,その中観思想を形成したのかというチベット中観思想の形成とその展開に関する問題について解明を試みる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主要な理由は,コロナ騒動の影響により,当初支出予定であった国内外の旅費の支出がキャンセルになったためである.その金額は当科研研究の成果発表としての出版費等に充当することを検討している.
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