研究課題/領域番号 |
19K12961
|
研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
大澤 耕史 中京大学, 教養教育研究院, 助教 (40730891)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ユダヤ教 / キリスト教 / 聖書解釈 / アイデンティティー |
研究実績の概要 |
令和3年度は、まず6月に京都ユダヤ思想学会の大会にて「誰が「ユダヤ人」とされてきたか」というシンポジウムを企画・開催し、古代・中世初期において誰が「ユダヤ人」とされてきたのかについて、ユダヤ人内部の法規、ユダヤ人とそれ以外の境界線をめぐる議論、同時代のキリスト教徒からみたユダヤ人像という三つの観点から分析を行った。私はそれに先立ち、ヘブライ語聖書の時代から第二神殿時代までの「ユダヤ人」の定義についてそれ以降の議論の土台となるような解説を付した。それぞれの観点か非常に有意義な提言がなされ、今後本研究を進める上で重要な「素材」をいくつも得ることができた。 このシンポジウム以後の年度後半は、論文「聖書解釈とアイデンティティー:古代末期のユダヤ教とシリア・キリスト教の比較から」の執筆を進め、日本ユダヤ学会の学会誌『ユダヤ・イスラエル研究』第36号に投稿した。現在査読中である。本論文では、ヘブライ語聖書中で用いられる多義的な「ゴイ」という語について、まず聖書中での意味を確認し(「民族」「国」「国民」などと訳される)、それらがシリア教父のアフラハト(3世紀半ば~345年以降)の著作『論証』とラビ・ユダヤ教のタナイーム期の文献の中で誰を指す語と考えられているかについての比較考察を行った。その結果、聖書においてはユダヤ人/イスラエルの民を意味に含まないケースでも、『論証』の中では含まれるとして解釈されているケースがあるなど、自分たちキリスト教徒のアイデンティティーを確立するための読み替えが行われていることが明らかになった。逆にユダヤ教文献では、ほぼすべての「ゴイ」を「異邦人」として解釈するなど、ユダヤ人とそれ以外の線引きのためにこの語が使われていたことが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度のみで考えるならば発表一回に論文一回とほぼ計画通りのペースで進められているが、昨年度までの遅れを取り戻すには至れていない。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度で方向性と成果の見込みについては明るい展望が開けてきたので、最終年度ではそれまでの遅れを取り戻しつつできる限り十分な形で本研究を締めくくれるように努力する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会が延期またはオンライン開催となったことにより、旅費の支出が当初計画より減ったため
|