研究実績の概要 |
原始キリスト教が自らのアイデンティティ形成にあたり、ユダヤ教の諸概念を取り入れながら、如何なる内的根拠をもって「異邦人の穢れ」概念を消化したのかを明らかにするため、「他者の受容」と恐らく表裏一体の過程としてある「他者」概念そのものの成立について、「キリスト教形成期における『他者』の実態:共生の地盤としての異邦人」(2022~2025年度)で発展的に継承しつつ、本研究課題最終年度の分析を行なった。その考察において、「ユダヤ人」と二項対立的に位置づけられる「異邦人」概念がパウロによってもたらされたとのAdi Ophir とIshay Rosen-Zvi による近年の議論(Goy: Israel’s Multiple Othersand the Birth of the Gentile, OxfordUniversity Press, 2018, 1-178)は、キリスト教における「異邦人の受容」が、単なる経過的事実ではなく、認識の転換を伴う積極的受容であった可能性を示唆しており、まず検討を要するものであった。Ophir とRosen-Zvi の議論のうち、パウロが新しい信仰共同体形成のために、従来の概念を取り入れつつ「異邦人」について新たな概念構築を試みたとの指摘を、これまでのパウロ研究とも対話可能な議論として積極的に評価しつつ、その議論をパウロの律法観の考察に応用する分析を行なった。まず前年度の研究成果を論文「第二神殿時代ユダヤ教の他者受容の基盤としての『創造』」として発表した上で、さらなる研究成果を、「初期キリスト教における異邦人受容について -新しい共同体形成のためのパウロによる概念構築の考察-」と題して、学術大会において口頭発表し、論文として発表した。また本研究課題の成果を、国際Workshopにおいて発表した。
|