2021年度は、前年に引き続きディドロやテュルゴーのテクストを分析し、18世紀の「事実」概念の解明に努めた。ただ、海外調査やそこでの報告等は出張が叶わずできなかった。彼らの「事実」観は当時の経験科学の知的枠組みと深く関係があり、歴史といった事象に対してもその経験科学的事実観を適用しようとする意図や戦略を確認することができた。とりわけ、テュルゴーの学問論は本研究にとって重要なテクストであるが、十分な分析には至らなかった。引き続き分析をおこなう予定である。 ルソーに関して言えば、『エミール』の草稿研究を通じて、「サヴォワ助任司祭の信仰告白」をめぐる事実のあり方、かつ共同体論を検討することができた。内的感覚という真理を担保するものとそれを他者に伝えるということの困難をルソーは強く意識しており、事実を巡って「誰がどのように事実を所有するのか」というコミュニケーションの問題として、ルソーにおける事実の問題を明確にすることができた。これらの研究内容については2021年度に成果としては公開できなかったが翌年度以降に論文や報告等で成果を報告する予定である(具体的には2022年6月の日本18世紀学会で報告予定である)。 本研究を進めるなかで「事実」の議論を多角的に捉えていく必要があると強く感じた。とりわけ、哲学や科学的なテクストだけの検討では現代的価値観から18世紀を捉える傾向が強くなってしまう。昨年度取り組んだ宗教論や法的言語等々も分析対象として実施することが今後の研究に必要不可欠だと強く感じている。
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