2023年度は、ガイスト概念にみられる「息吹」と「雰囲気」の含意から出発し、本科研課題の展開可能性を探る一年になった。新学術領域「雰囲気学」創出と展開がその柱をなす。2023年6月にはスロベニアでの国際シンポジウムで、ゲーテ『西東詩集』にみられる息吹の両極性イメージを扱う口頭発表を行った。2024年9月(神戸大学)、同年11月(ドイツ・ハンブルク高等研究所)、2024年3月(慶應義塾大学)には、ゲーテと雰囲気学の関連についての口頭発表を行い、それぞれ色彩論・ゲーテ晩年の無題詩(「黄昏」)・『ファウスト』第一部を取り上げつつ、ドイツの哲学者ゲルノート・ベーメのゲーテ受容を中心に考察を行った。また、2023年5月にも、本科研課題に関わる雰囲気学の口頭発表をドイツ・キールで行った。2023年12月には『現代思想』で論考「雰囲気学をひらく」を発表し、本科研の成果を含め、雰囲気学の先駆者としてゲーテを大きく取り上げた。 研究期間の全体を通じて、ゲーテのガイスト概念の多義性のうち、特に「時間論的・生命史的な含意」および「哲学的雰囲気概念への接続可能性」を集中的に解明することができた。双方とも従来の研究にはなかった新視点であり、今後の研究推進において一定の意義をもつと考える。前者については、科研・基盤C「ゲーテ形態学的生命論の研究(23K00428)」を後継プロジェクトとして国際展開を計画している。また後者の本科研内容は新学術領域「雰囲気学」につながっており、今後は、神戸大学と島津製作所の共同事業、科研・基盤B「感情と空間をめぐる比較文化史――新現象学の「感情空間」概念の批判的再検討(23H00574)」および神戸大学の先端的異分野共創研究プロジェクトとして研究を推進していくと同時に、雰囲気学の観点から独自のゲーテ研究を進めていく。
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