研究課題/領域番号 |
19K12970
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研究機関 | 多摩大学 |
研究代表者 |
高橋 恭寛 多摩大学, 経営情報学部, 准教授 (70708031)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 儒学思想 / 中江藤樹 / 日本陽明学 |
研究実績の概要 |
昨年度は初年度にあたるため、まずは文献収集に努めるとともに、現行の『藤樹先生全集』(以下『全集』)に収録されている書簡についての内容把握と、『全集』第2冊「代表的原本内容一覧表」を参考にしつつ『全集』が校勘に用いた各書簡集や文集の重なり具合について確認をした。『全集』「正編」における書簡は、多数被っている。『全集』編纂時における諸本の比較検討は、藤樹の作品を補完する目的であった。しかし、本研究課題においては、世間に出回っていた書簡にどのような偏りがあるのか、またどのような書簡は世間にあまり出回っていなかったかが課題である。 まずは、最も早くに刊行されていた書簡集『儒生雑記』(兵氏無謝序、1705年刊、大塚屋清兵衛)との比較検討をおこなった。この書簡集は、後に『心学文集』(丘思純序、1789年・1790年・1825年刊)という書名で改題刊行されている。弟子の熊沢蕃山との書簡が混在しているが、再版回数も多い。この書簡集の内容は、基本的に『全集』「正編」の書簡集と被る。ところが、『全集』「正編」には収録されている藤樹41歳の時の書簡が4通、『儒生雑記』には収録されていない。それらは、書簡のなかで「王陽明」に言及している書簡ばかりである。しかも、藤樹が陽明学を奉ずるようになったきっかけについて自らが告げた書簡も含まれていたことが分かった。すなわち世間で流布していた書簡集からのみでは、藤樹が陽明学をどのように理解していたのかを理解する資料として十全ではなかったことを明らかにした。 このような研究成果について、昨年度は、海外の研究会において、中途経過報告として報告の場を持つことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度から勤務校が変わったことで新たな現場への対応に迫られるなどしたため、時間の確保が例年通りにはいかず、少なからず遅延の影響があった。それでも文献収集と内容分析については、順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度収集したが、十分に分析出来なかった資料をもとにして『全集』との比較検討を進める。書簡集の収録内容に偏りがあるならば、どのような主張が藤樹の主張として世間に出回っていたのかを考察する。また、書簡集に大きな重複がない場合、個々の書簡集のケースを個別具体的に内容把握に努める必要もあるだろう。 また、書簡集のみでは、十分に世間に流布した藤樹の思想的傾向を浮かび上がらせられないリスクも考慮にいれ、書簡の検討と同時に、藤樹に仮託した文献『為人鈔』や『止善録』なども本年度において取り上げ、中江藤樹という思想家がどのような主張をする人物として捉えられていたのかを考察してゆく。
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