本年度は、全国的な移動制限に対する忌避がやや薄まったようにみえる状況を鑑みて、滋賀県高島市にある中江藤樹記念館への調査、さらには兵庫県たつの市にある竜野歴史文化資料館への調査などに向かった。ただ、中江藤樹記念館では、長期の資料整理中により満足のいく調査ができなかった面は少なからずある。 ただ、それでも『藤樹先生華翰』『藤樹先生華翰続集附録別集』、『藤樹先生書翰』などを確認し、デジタル撮影することができた。これらと刊行された『藤樹先生全集』(以下『全集』)における上記の書簡集の記録についてもチェックをすることができたが、『藤樹先師花翰詠歌』(2-341)をはじめとした、一部書簡集に関しては、長期資料整理中のために閲覧することができず、その内容を十分に確認できたとはいえない。 ただ、記念館所蔵の書簡集も含めて本年度、これまで収集した書簡集を一通りまとめたところ、ほぼ全ての書簡集がいくつかのパターンの書簡集の写本であり、ほとんどが藤樹学の内部で出回っていたものであったことが分かった。ここからは、その学派の写本で出回っていたことが伺える。ただ、基本的に自らが書簡を取捨選択して書簡集をまとめたようなものは目立っていない。そして『全集』で記録されている様々な書簡集は、長期資料整理中のために藤樹記念館でも十分に把握しきれておらず、『全集』編纂時に用いられた書簡集の原書を全て十分に確認できる準備が整っているとは言えない状況が把握できた。 また、これら書簡集をまとめた上で藤樹学の理解を深め、日本倫理学会の2022年度研究大会にて主題別討議に参加し中江藤樹と藤樹学にかんする事項も報告に入れることができた。以上のように、本年度に調査ができるようになり、全国の藤樹書翰の写本パターンについて解明することができたといえる。
|