研究課題/領域番号 |
19K12972
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
竹中 真也 中央大学, 人文科学研究所, 客員研究員 (50816907)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 思念 / 自由意志 / 情念 / 恵み / 生得的思念 |
研究実績の概要 |
バークリ哲学の「思念」の由来をあきらかにする糸口として、カドワースの「思念」を考察した、「カドワースとバークリにおける「思念」について」(『紀要―哲学』(中央大学文学部) (64) 59-75 2022年3月)を上梓した。これは昨年度のセッション発表を文章化した成果である。この論考においてはおもに、カドワース哲学における知性認識がいかにして行われるかを、二次文献を踏まえながら、具体的に解明した。さらに、今年度あらたに進展を見たのは、カドワースにおける自由意志や情念の解明である。意志ひいては自由意志の問題は、伝統的に、世俗的欲求(肉体的欲求や名誉欲など)と神の「恵み(gratia)」との関連のもとあつかわれてきた。カドワースはその伝統に即して自由意志を論じたが、その自由意志と、知性認識、欲求、情念、恵みが、いかなる関係にあるのかが明らかになった。つまり、人間精神が世俗的欲求との葛藤のただなかでも、善を選び取る力を有する機序が明確になった。 しかも、カドワース哲学の自由意志論の一端が解明されることで、それとバークリの意志論が対比的に浮き彫りになり、両哲学者の比較から、イギリス哲学におけるひとつの変化を確認できた。つまり、恵みそれ自体に関する議論をバークリはほとんど論じることはなかったが、恵みではなく、想起説に基づく生得的思念という知性認識を重視する姿勢がバークリにあることが明確になった。ルネサンス期由来のプラトン神学(古代神学)をカドワースもバークリも採用したが、カドワースの方が、伝統的神学を引き継いでいたとも評価できる。今後は、カドワースのなかでの形成的自然(Plastic Nature)が彼の体系の中でいかなる役目を果たすのか。唯物論者たちに対して、どのようなしかたで対抗したのかを解明する。また、バークリの『サイリス』を精読して、カドワースとの対比を鮮明にしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の成果を論文化して、発表することができるが、それがなされていない。カドワースの研究については、「形成的自然」についての分析が課題として残されている。可能なら、国際学会にて発表する。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の成果を投稿して2022年度に論文として公表するとともに、さらに生命論的な観点をカドワース哲学を踏まえて、その意義や射程を確認し、そのうえでバークリとの比較をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021度に発表したのが国内の学会であり、オンライン開催であったので、交通費等がかからなかった。また資料についても、一定数はそろえることができていたので、それ以上の使用がなかった。2022年度は、可能であれば、海外で学会発表するか、あるいはカドワースやバークリの研究に必要な最新の研究書を購入する。
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