研究課題/領域番号 |
19K12973
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
渡辺 恭彦 同志社大学, 人文科学研究所, 嘱託研究員 (90817727)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦後民主主義 |
研究実績の概要 |
小説家であり中国文学者である高橋和巳の戦後民主主義観を明らかにした。来歴をたどりつつ、主要作品『捨子物語』(1958)、『悲の器』(1962)、『憂鬱なる党派』(1965)を読み解き、高橋が敗戦体験の思想化を課題としていたことを浮き彫りにした。戦後知識人の社会参加という観点からは、1950年代の学生運動に高橋が関わっていたことが実作や思想形成において重要な意義を持つことを再確認した。60年安保闘争に高橋は直接関わっていないが、交流のあった中国文学者竹内好や埴谷雄高の言説から思想的影響を受けたことを明らかにした。高橋自身の社会参加は、後の京大全共闘運動の支持にみることができる。 さらに、戦後民主主義の旗手とされる丸山眞男、丸山を批判した吉本隆明の戦後民主主義観を比較の参照軸としつつ、高橋の戦後民主主義観を分析した。それにより、敗戦とともに国家価値から民主主義へと急激な価値転換が起こったことを高橋は冷徹に見ており、自由や平等を寿ぐ戦後民主主義についても批判的な態度を取り続けたことが明らかになった。とりわけ、高橋の戦後民主主義への見方が先鋭化されたのは、京大全共闘支持を表明してからである。高橋の見方では、議会制民主主義などへの反抗心をあらわにしている学生は戦後民主主義の矛盾を体現する存在である。戦後二十年たって顕在化した精神的空虚は、戦後民主主義の矛盾のあらわれであると高橋はみている。 これらの研究成果を第44回社会思想史学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進める手順に多少の前後はあるが、丸山眞男、吉本隆明、高橋和巳の言説を相互に連関させながら研究をすすめている。戦争体験や60年安保への関わりをもとにした比較の手法を確立することができ、当初予定していなかった研究成果を得られた。研究成果をまとめた論文は、参加している同志社人文研の共同論文集に投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
丸山眞男の一次文献、先行研究の検討に移る。吉本については、学生運動との関係を洗い出す。高橋和巳研究により、戦後思想における重要性を感じた埴谷雄高、竹内好についても研究の対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定書籍の在庫がなかったため購入を見送り、差額が生じた。翌年度に発注して購入する予定である。
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