研究課題/領域番号 |
19K12977
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳沢 史明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (10725732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 芸術学 / アフリカ / 植民地 / ツーリストアート / ベナン |
研究実績の概要 |
本年度は19世紀末から大量に制作された真鍮製小像制作に関して、個人でのテーマ研究を遂行するとともに、近接領域の研究者や実務家の協力を仰いだシンポジウムの開催を実施した。前者に関しては、植民地時代の記述や先行研究での扱われ方を主に分析しつつ、こうした小像が、アボメイ外部からの影響を受けつつダオメの王家に属していた特定の血縁集団を中心に制作され伝播したものであること、宣教師や植民者らに向けた「ツーリストアート」としての側面を備えていること、さらには当地の先祖崇拝と関わる持ち運び可能な祭壇「アサン」の台座装飾への流用がされはじめたことなど、植民地化を通じた文化変容を多分に反映しているものであることが明らかとなった。これらの歴史的側面の研究に加え、失蝋法をはじめとした金属工芸制作の基礎的知識を学ぶため、都内の金属工芸研究者・作家の作業場を訪問し具体的に制作現場や手法等のレクチャーを受けた。制作に用いる具体的な素材や技法の特徴、鞴の崇拝など本研究と様々な点で関わりつつも文字資料では必ずしも把握しきれない制作現場の諸主題への理解が深まると同時に、金工と地域性・宗教性など、本研究領域が様々な方向へと広がるものであるとの認識を得た。本年度実施したもう一つの大きな研究は、近接領域の研究者及び企業との共同によるものであり、「アフリカからアートを売り込む――研究と企業の活動から考える現状と展望」と題したシンポジウムの企画及び実施である。「ツーリストアート」をはじめ「販売」「売買」を重要な目的とした「アート」に着目しつつ、アフリカから「アート」を売り込むという主題の歴史、現代のアフリカや世界、さらに学会や大学機関等に及ぼす影響や問題点等を、研究代表者を含む発表者6名が検討した。聴講者も100名を超え少なからぬ反響を呼んだものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はシンポジウムの計画・実施を年度内に遂行できたこと、また金属工芸研究者・作家の作業場を訪問できたことなど、他の研究者・協力者の厚意に恵まれたこともあり、全体的にスムーズに研究が進展した。またCovid-19の流行以前に研究計画の多くを遂行したこともあり、大きな予定変更もなく当初の研究を実施できたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は前年度実施したシンポジウムを基調とした書籍の編集及び刊行を主軸に据えつつ、アボメイの真鍮製彫像、ギニア湾沿岸部及び西アフリカの金属製彫像の歴史研究、また「ツーリストアート」という観点から当該地域の造形文化の比較研究を行うつもりである。また本研究を基盤とした芸術と人類学の理論的研究にも着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
12月にシンポジウムを実施するため人件費や物品費等の予算を多めに見積もっていたものの、当初予定していた出費より低く抑えられ、残余分を無理に2019年度中に捻出せず、2020年度分として計画的に使用したいと考えたことが次年度使用額が生じた理由である。残余分は主に書籍代やシンポジウム書籍化に当たる諸経費に割り当てる予定である。
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